コウカイ
文字数 515文字
来し方を振りかえらずにはいられない性格だ。そして後悔をくりかえしている。わたしは悔いの気もちの大きさからため息をつく。するとどこからか小さな虫が歩いてきて、わたしのため息を手際よく丸めてしまう。そして足でころころと転がして去る。わたしのため息など巣穴に運び入れ、何に使うのか。不思議に思う時間も続かず、またむくむくと後悔の気もちがふくらみわたしはため息をつく。別の虫がやってきてそれを丸め持っていく。わたしがため息ばかり生み出すので、それを目あてに自室に虫の列ができてしまった。さすがにわたしも前を見て生きるべきだと気がつく。人間の心など、気の持ちようを少し変えるだけでずいぶん違ったものになる。わたしの生活は明るく変わり、前方に視野が開けてきた……。しかし問題も生じた。ため息を当てにして増えに増えた虫たちが、わたしのまわりを囲んでいるのだ。彼らはものを言わず身じろぎもせず、じっと待っている。しかも時が経つにつれさらに数を増しているようだ。その様子に恐れを感じて、癖になったため息を思わず小さくぽつり、ひとつだけついてしまう。たちまち目の色を変えた虫たち。一斉に飛び跳ね、八方からわたしの口もとめがけ波濤のように押し寄せる。
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