ハナ
文字数 298文字
通りがかった崖に美しい花が咲いていた。私はそれを欲しいと思い、家族が止めるのも聞かず崖を登りはじめた。予想以上の苦労の末、ようやく手が届きそうになったところで花が跳ね、ぴょんぴょんと上の方まで上がってしまった。ここまで来てあきらめたくはない、私はさらに登っていく。家族の声はもう聞こえない。周りを見ると少なからぬ人影が同じく崖を登りそれぞれ花を追っていた。勇気づけられたが、崖にしがみつく姿で過ごす人生が惨めに思えてきた。上へ上へと逃げるあの花を手に取る日は来るのか、そして手に入れたらどうだというのか。心はとても揺らぐのだが、結局私は今日も一人で登っていく。誰も聞かないうめき声を上げながら。
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