ナイフ

文字数 233文字

 彼女のことが憎らしい。だがわたしが彼女を憎めば憎むほど、彼女はなぜか美しさを増す。その美とわたしの有り様との差に、また憎しみが増していく。彼女はいつも向こう側にいる。わたしはこちら側。今わたしは鏡を睨んでいるのだ。あなたはわたしのことを自己陶酔者と呼ぶだろうか。しかし彼女に加わる美がわたしにも同様に加わっているとは思えない。不公平の積み重なりからくる憎さをもう抑えきれず、わたしは彼女を殺そうと決めた。鏡のなかでは彼女が蔑むように嗤い、やはりナイフを手に取った。


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