オト

文字数 452文字


 私の体の内側で、コツコツと叩く音が断続的に続く。疲れているのに眠れない。うるさいなあとつぶやいたら、我慢しなさい、今は頭の大事な部分を調べているところだから、と厳しい口調の声が内側から返ってきた。驚いていろいろ尋ねると、その声の主は私の体にある無数のつなぎ目の安全確認が仕事で、体の内側を軽く叩き緩みの無い事を確かめながら半年ほどかけて廻るのをずっとくり返していると言う。すべての箇所を確認し終えると、また初めから作業をやり直す。そんな大変な仕事をしてくれている人がいたとは、まったく知らなかった。思わずありがとうございますと布団の上で頭を下げる。なぜ今回は作業の音が聞こえるのか不思議に思ったが、さんざん泣いたせいで内側に隙間が広がり、音がよく響くようになったせいだろうと答えてくれた。しばらくすれば隙間なんか埋まって、また聞こえなくなるよと言われ、安心したせいか急に眠くなった。コツコツ、コツコツ、小さな音が遠くなっていくのを聞きながら眠りの深みヘ。次の日からはその音は一度も聞こえてこないままだ。


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