フイゴ
文字数 405文字
鞴を押す仕事をもらった。大きな箱から突き出している重い抵抗のある木の棒を、両手でぐいと押しこむ。すると風が生まれて火に送りこまれ、その火をより盛んにする仕組みらしい。わたしからは火は見えない。ただ伝声管から来る命令を聞いて、鞴を押すだけである。わたしは勤勉に役目を務めた。ある時、とつぜん捕吏がやってきて、わたしを逮捕した。怪しい火により世の中に強い不安を与えた容疑だと言う。わたしはとまどい、命令にしたがい仕事として風を起こしただけだと弁明した。すると、そんな命令をした者はいない、言いわけをするなッと、たいへんな怒りようだ。わたしは仕事場から乱暴に連れ出されながら、いったいどんな火がわたしによって燃え立ちどのような人々を怯えさせたのか尋ねたのだが、ついに答えてもらえなかった。わたしが捕吏の声と伝声管の声の類似に思いいたったのは、その日の夜のことだったが、無論何を動かすことも変えることもできなかった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)