フクノカミ

文字数 640文字


 連絡によれば、わたしのもとにも福の神が来てくれるとのこと。わたしは心を踊らせて待つ。しかしどうしたことだろう、いっこうに現れない。それで家の外をうかがい見ると、白い獣の姿をした福の神が、ちょうどこちらに駆けてくるところだった。やっと来てくれたと喜んだのもつかの間、その獣は落とし穴に落ちて、それきり静かになってしまった。わたしに福が届いていないことが、幸せの元締にも伝わるのだろう、その後もやはり白い獣の姿で、福の神が急ぎ走ってきた。そしてその都度わたしの目の前で網や袋や籠といった罠に捕らえられてしまう。どうやら彼らは、悪用をふせぐためか、他者に捕まるとあっさり消えるらしい。わたしは自分のための福が消されていくのを見て不愉快だった。それに先ほどから、くすくすと数人の笑い声が聞こえる。わたしを侮っているのがはっきり感じられる笑い方だ。いったい誰がわたしに意地の悪いことをするのだろうと思って声の主たちを探すのだけれど、辺りに見あたらない。そのくせすぐ近くで笑い声は続くのだ。あいかわらず福の神が走ってきては穴に落とされたり閉じこめられたりをくりかえす。わたしが何をしたら執拗な悪意の標的からはずれるのかわからない。たぶんいたずらをしている者たちにも理由などないのだ。星が明け方に流れるように、思いついたことをしているだけだろう。わたしはあきらめて紅茶を淹れ、テーブルに頬杖をついて、福が訪れてくれた後のことを空想する。そう言えば、永いことわたしはこうして生きてきたのだった。


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