クジャク

文字数 641文字


 捕獲された星を火であぶり、孔雀の姿に変化(へんげ)させて売る――小さな港町にそんな店ばかりがならぶ。近年、毒を含んだ星の光が海に降りそそぎ、魚が捕れなくなってきたそうだ。そのため、海面近くまで下りてきた星を捕獲しては売るやり方に変えたらしい。星が食用になれば商売も楽だっただろうに、独特の臭がする油が採れるほかは人の役にたたず、孔雀に変え愛玩動物として売るくらいしか使い様がなかったのだ。星は空に吹出物でも出るように増えている。漁師たちは海の毒を増やしたくないので、駆除の意味もあり星を次々捕獲する。しかし毒を持つ星だった孔雀など買っていく人は少なく、この町の至るところ孔雀だらけとなっている。そんな町にわたしは嫁入りのため訪れたのだが、町を歩いて孔雀たちの視線を受けるうち、自分が誰の嫁に来たのだったか忘れてしまった。きょとんとした、知性のない孔雀たちの目。歩いても歩いてもそれが並ぶ。そして気づけば、孔雀を商う店の並ぶ通りを下っていたはずが、いつしか海の上にいる。両側に並ぶのは星たちで、黙ってわたしを見つめている。後ろからさっと網が投げかけられた。わたしは抗えず、陸へと引いていかれる。漁師たちにはわたしの姿が星に見えるらしい。ひょっとして、町の店に並んでいるのは星ではなくて嫁たちではないのか。漁師たちは星に目をくらまされ、星ではないものを獲りつづけているのではないのか。あわててもわたしは一言も発することができない。これから油を取られたあげく、火で炙られて孔雀にされるというのに。


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