テガミ
文字数 407文字
遠方の友から手紙が届いた。こんな体験は久しぶりなので、すぐに開封した。すると、今こそあの時のことを君に謝らなければならない、と深刻な調子で以前の出来事について謝罪する文面だった。しかし困ったことに、わたしにはその日その場所にいた記憶がない。そもそもその場所の名称さえ今まで聞いたことがなかった。宛名はたしかにわたしの名だ。けれども友と思った人の名に本当に覚えがあるかどうか、とても曖昧になってきた。この人はわたしの知らない場所でわたしに何をしたのだろう? あらためて手紙を読んでみると、まるで外国語で書かれてあるように、意味が読みとれなくなっている。内容を問いただそうにも、差出人の名前も住所も読みとれなくなってしまった。それきり友という人からの手紙は来ない。わたしは読めない手紙をときどき出して眺めては、どんな仕打ちをされた結果が今のわたしなのだろうと考えるのだけれど、とまどうことに、結構わたしは幸せなのだ。
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