トウ

文字数 600文字


 簪の先のように細い塔がそこかしこ、厚い雲の上に突き出て見える。それぞれの最上階に、わたしと同じくらいの年の娘たちが住み、待っている。雲はさまざまに色合いを変えて動き、盛り上がり、去る。はなだ色、薄紅、茜色。薄緑、青紫、紫紺。薄茶、生成色、ところどころが銀に光る胡粉色……。その雲むらの上を飛び白い龍が、各塔に恋の種を配っている。種をもらえた娘が塔を下りるのだ。端から順に配られるわけではないらしく、わたしのいる塔のすぐそばを龍が通り過ぎたことが何度かあった。なかなか来ない恋の種。わたしはそれがどんなものか、そして下界に下りてから咲く恋の花とはどんな様子か、いろいろと想像し期待を高めながら待つ。ある夕暮れ時、雲の輝きがおさまり消えるのを見るうちふと、自分がいつからこの塔にいて龍の来るのを待っているのか気になった。そして、以前にもこんな疑問を持ったことがあったと気づいた。今あらためて周りを見回すと、塔の数がずいぶん減っている。恋の種を得て主が去った塔を壊しているのかもしれない。だがわたしはとくにあわてもせず、また待つことで日々を送る。ほかに何をしようもないのだ。そしてとうとう、夜のなかに突き出している塔が自分の住むそれだけになったことを知った。もう空に龍の姿もなく、雲だけが色合いと形を変えつつ無言で流れていく。わたしはそれでもなお細い塔の最上階で、いずれ訪れるはずのものを待ち続けている。


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