第19話 

文字数 2,322文字

 太陽の日が久しぶりに來未の部屋を明るく照らした。
 すべてを終えた來未の部屋は綺麗に整理整頓されている。騎士が片づけてくれたのだ。
 ベットの隣に並びあう二人、先に口を開いたのは來未だった。
「私からこんなこと言うのあれだけど……あきらめないで」
「……」
 來未のお願いに騎士は沈黙するだけ、何も言葉を返してくれない。それでも來未は続けた。
「私も最後まで諦めないから」
「……ああ、正直俺の性には合わないしな」
 騎士は最後に笑って言う。いつもの明るくて元気な騎士が戻ってきたように來未には見えた。
 よかった。心の中でそう呟いた來未の顔にも笑顔が戻る。
「じゃあさっそく呼びに行くか!早苗を」
「うん!」
 二人は同時に部屋を出て、早苗の家に向かった。
 早苗の家のインターホンの前に着いた騎士と來未が押す。
「はい、來未ちゃんと……そのお友達さん?」
 早苗のお母さんの言葉に來未の手に自然と力が入る。來未は昨日の夜、騎士とたくさん話をして早苗の問題は親のせいだということに落ち着いていた。それだけで、苛立ちを覚えたが更には早苗の幼馴染の騎士を知らない人だと思っている。
 小さい頃と違い髪が伸びている、こんな普通から逸脱している子が、早苗の友達にいるわけがないと、そういわれているような態度。怒りがこみ上げてこないわけがない。
 すると來未の手を騎士が優しく握った。それから來未二部ごんで微笑むと早苗のお母さんへと言葉を返した。
「騎士です。早苗呼んで貰えますか?」
「え……あ、はい」
 そう言うと早苗のお母さんが大きな声で名前を呼ぶがインターホンから少し漏れる。
 それから少しと経たないうちに勢い良いよく玄関のドアが開け放たれ早苗が飛び出してきた。
 その目はとても動揺していたが、來未と騎士と目が合うと暫くしていつもの早苗に戻る。
「來未……。騎士、何しに来たの?」
「あの時は本当にごめん!」
 騎士は深く頭を下げると大きな声で謝った。その声につられてか、早苗のお母さんが玄関から顔を出す。
「気にしてないからそれは大丈夫」
 早苗は慌てた様子で騎士の行動を止めようとするが、騎士は気にせず早苗のお母さんに挨拶をする。
「あ、早苗のお母さん。お久しぶりです、騎士です」
 早苗のお母さんは玄関から出ると騎士の隣に並び、笑顔で対応する。
「おおきくなったわね、ずいぶんと立派になって。小さい頃と全然雰囲気が違ったからわからなかったわ」
「いえいえ、そんなことありません。大切な話があるんですけど、早苗さんお借りできますか?」
 早苗のお母さんは早苗の方を向くと小さな声で言った。
「門限は守るのよ」
「うん」
 早苗が小さく返事をするとお母さんは家に戻っていく。
 早苗はお母さんの背中を最後まで見届けると、騎士と來未の元に歩いてくる。早苗の顔からは不安そうな表情が溢れ出ていた。
 早苗が目の前に来てから騎士が落ち着いた声で囁いた。
「早苗。俺たちは話し合わなきゃいけない、もう一度この三人で」
 來未もまっすぐな瞳で早苗を見つめながらそれにうなずく。
「本気で向き合うんだ」
 騎士が続けた言葉から確かな覚悟を早苗は感じ取ったのか表情が少し変わった。

「早苗はここくんの初めてだよなー」
「そーなの?」
「うん」
 手慣れた騎士と來未は簡単に手続きを済ませスタジオの中に入っていく。
 話し合いの場所として早苗が連れてこられたのは騎士がいつも練習場所として使っているスタジオだった。
 そこで、三人は向かい合うように床に座る。
「まずは俺から言うよ」
 騎士は自分の家の状況、諦めかけていた夢の事を話す。それに続いて、來未はストーカーを受けた事、そして早苗が悩んでいたことを騎士に言ってしまったことを早苗は聞かされた。
「早苗、すまん、文化祭でも、今まで何度も……そんなにひどいのか?」
 本当に心の底から謝る騎士は心配そうに早苗を見つめる。
「は?別に何にも感じてない……」
 ただそんな早苗を二人は心配そうに見つめていた。
「ああ、もういいよ。全部言えばいいんだろ。クソ!」
 大きな悪態をつきいらだつ早苗はまるで怒鳴っているかのように続けた。
「ああそうだよ!普通じゃないお前が、いつも暑苦しくかまってくる。それに流されるように、來未も普通じゃなくなっていく。つかれるから、大変だから!普通になるように意識してたのにもかかわらず、お前が!來未を普通の道から外したんだ!何が応援するだ!ふざけんな!余計な迷惑なんだよ!」
 感情が爆発したように怒鳴り散らかす早苗に、騎士は押し黙り來未は思わず泣きだした。
 怖いからではなく、今まで誰にも言えず、ただ一人で抱え込んできた早苗の心の叫び声だったから。今思え返せば、早苗の友達はいつも騎士つながりで、誰か友達と遊びに行くところなんて、來未は一度も見たことがなかった。
「俺がどんな思いでいたと思ってる!クラス中に注目される奴が普通か?クラスの出し物されるのは普通か?そんな普通じゃない状況を訴えたらどうなる!それこそ普通じゃないだろ!場の空気を読まないやつに普通なんてありえないんだ!どんどんどんどん僕の立ち位置を亡くしてきたじゃないか!」
 次第に早苗の声に震えが混じり、目からは涙が滴れ続ける。それでも早苗の気持ちは止まらない。
「こっちは普通でいるために、なやんでなやんで、答えを出してきたのに!一番普通じゃないやつが、悩んで苦しんでる僕に普通なんて言葉を使うなあああ!!!!!」
 その言葉を最後に嗚咽を漏らし、ただひたすら泣き続けた。
 來未は泣きながら早苗に抱きつき同じように声を出して泣く。騎士はその二人の姿を見てはいられず、目を逸らすように俯いた。
 そして、一粒の雫が床に落ちた。
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