第29話 繰り返す過ち2

文字数 2,756文字

「きっぱり振られちゃったんだ」
「……」
「それで、この先どうしよっかなーって思ってて外ぼーっと眺めてたの」
「そうだったんだ」
 それからまた静寂が続き一つの家の前に着く。
「ここ、私んち」
 そう言って玄関のかぎを開ける來未。
 博人は道路からその光景を多段見つめた。
 ついてきていなことに気が付いた來未が振り返る。
「いいよ、きて……今日うち親か夜遅くまで帰ってこないの」
 いわれるがまま流されるように家にお邪魔する。
 始めてきた女子の家でその家が好きはひとの家。奇跡のような出来事が続いているのにもかかわらず喜べない。
 來未の部屋は少し散らかっていて、女子特有の甘い香りがする。
「そこのベットに座ってていいから。かばんもてきとうでいいよ」
 そう言って來未は部屋を出ていく。
 僕は言われるがままカバンを置き來未が普段寝ているベットの上に座る。心臓が跳ね上がり、冷静でいられない。まるで面接の待ち時間の時に味わうような感覚だった。
 暫くして來未が戻ってくる。彼女の両手にはお酒と書かれた二つの缶があった。
「飲む?」
 僕は無言で首を横に振る。一つを机の上に置くともう一つの蓋を開ける。
 静かな部屋で、ぷしゅーっという音が響いた。そして僕のすぐ隣に座るとゴクゴクとお酒を飲んだ。
 その姿から以前ギャルであった來未を容易に思い出せる。恐怖を感じる。それでも今まで知らなかった好きな相手の新たな一面だ。
 來未は何も言わずに続けて飲んだ。
 緊張からか、それとも恐怖からか博人は來未は何も言えなくなった。
 それからまた一口二口お酒を口に運ぶと話始めた。
「ここ最近?それより前からかな、私と話すのうざくなかった?気疲れしなかった?」
「……」
 突然の問いかけにうまく口が開かない。
「私さ、クラスの子に八風美人って嫌み言われてるの耳にしちゃったの。再起少し相手にされてない気がしてたのほんとだったみたい」
「ほら、早苗と私って結構有名なカップルだったでしょ。それでさ、私達が別れた理由みんな不思議におもってたんだとおもう。それで答えを欲しがった皆がわたしに原因があるって目を付けたんだろうね。八方美人と付き合ってたら大変だろうって。分かれる気持ちも分かるって、付き合ってても他の人に媚び売ってたんだろうって。誰にでも合わせられるのがわたしの特技だってアイデンティティーだって思って、早苗と付き合えるとおもってたらさ」
 來未は涙を流しふるえる声で続ける。
「その私の良さを磨こうと思って少しでも早苗が振り返ってくれるかもと思って、なのに……なのに……こんなことになっちゃんだ」
「八方美人って……」
 咄嗟に否定しようとした博人の口が閉じる。今思い返せば、そう思われるような行動が確かにあった。
 そのたびに博人は心揺さぶられていた。
「私ってそんなだめ?最低なの?こんなに頑張ったのに、こんなに努力したのになんで見てくれないの、なんで振り向いてくれないの。私の性格が悪いから、わたしにつみがあるから?なんでなんでなんでよ!たくさんくるしんだ!たくさんつらいおもいしたよ!皆に優しくしたはずだよ!なんで認めてくれないのよー、なんでなんでなんで。もうやだよ……つかれたよ……つらいよ。……さみしいよ」
 來未が抱えてきた苦しみが博人の心をも、のみ込んでいく。
「ごめんなさい、ごめんなさい……今だけは許して」
 顔を近づけてくる來未は真っ赤になっていて、そいの間も頬から涙が滴り続けている。
「うん。大丈夫、大丈夫だから」
 そんな不器用な言葉をかけ、來未の背中に手の先だけつけて不格好な形で背中を撫でる。來未の触っていいか分からず指先だけしか触れられない。
「ねえ……」
 顔のすぐ近くで來未が問いかけてくる。僕は頬を真っ赤にしながらなんとか返事を返した。
「うん」
「私可愛いよね……お願い、嘘でもいいからいって」
 小さく続ける言葉に博人は大きく首を振りながら答えた。
「うそじゃない、本当かわいい……です」
 その言葉に來未は小さく笑うと博人を押し倒しながら言った。
「いやだったら……拒否していいんだよ」
 そう言って來未の顔が近づいてきて唇と唇が触れる。
 博人は恥ずかしさのあまり目を閉じた。しかし、その先に舌が伸びてきて口の中を掻きまわす。
 初めての感覚に目を見開いて來未の制服を握り締め、口を離すと大きく息をする博人。初めての経験で呼吸の仕方が分からなかった。
 しかし、博人の初めての経験はそのままでは終わらない。目の前でまたがっている來未が服を全部脱ぎ始めた。
 思わず腕で目を隠す博人だったが、その腕をどかされてしまう。
 大好きな來未があられもない姿で目の前にいる。どうしたらいいか分からない。來未の甘い香りが現実味をなくしていき、まるで夢の中にいるようにも思わせる。
 そんな博人に來未は顔を近づけ耳元で囁いた。
「好きなようにしていいよ」
 それから來未は博人の手を自分の胸へと運ぶ。
 肌に生温かくて柔らかい触感が伝わる。おもむろに手を動かすその姿をいやらしい目で來未は見つめて来ていた。その目線が博人の胸をどきどきさせ、体を熱くさせる。
 またがっている來未が博人の体の変化に気が付似たのか、でっぱりを優しくなでる。
 されるがまま脱がされた博人は固まったまま何もできない。どうしたらいいかもわからない。されるがままになるしかなかった。
「初めて?」
 そのいやらしい問いかけに唾を飲み頷く博人。來未は全てを忘れるように快楽にゆだね、袋をかぶせまたがった。來未は何も知らない博人に覆いかぶさり甘い声を漏らしなが大きな傷を隠していく。



 あれから來未は毎日の様に作り笑いを浮かべ無理やりに笑う。
 來未自身ももうどうしたらいいのか分からないでいる。ただうわべだけの関係で皆と取り繕った会話をする。
 もうこのクラスのどこにも來未の居場所はなかった。
 その事情を唯一知っている博人に何かできるわけでもない。ただ黙って見つめていることしかできない。
 そして僕は沼田にも言えない秘密を抱え続けていた。
それはもう引き戻せない博人と來未の関係。
 來未の事だ、もう僕の気持ちに気付いている。分かっているからこそ僕を誘った。断らない……断れないと分かっていて。
 でも、僕もいけないと思いつつこの関係が途絶えることを望まなかった。その結果何も得られないと分かっていて、いつか終わると分かっていても。それが、このクラスで一番の友達の沼田の気持ちを踏みにじっていると分かっていても、僕はこの関係を断ち切れない。
 勉強会、そんな肩書に隠れた本当の目的は違った。夢を、目標を見失った僕たちはつらい現実から目を逸らすように回数を重ねていく。
 お互いにそれを求め、利害が一致している。だから終わることはなかった。
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