第13話 文化祭

文字数 2,124文字

 今日は文化祭当日。
 クラスの出し物はミニゲームセンター。主に輪投げや射的、お菓子釣りやチェキ撮影など。
 早苗は仕事の時間決めで午前中を選んだ。というのも仕事内容も時間もどこでもよかったが、騎士と一緒になりたくなかったからだ。
 來未に何時にするのか、と聞かれたが早苗は特に時間を合わせようとは考えていなかった。その為に來未にはカンナたちと組むことを進めた。
 基本、勧めたことや頼んだことを來未は断らないの知っていたが、その日は違った。一向に引き下がる様子はない。理由を聞いてきたいえるわけない。
 はぐらかし続けた結果、挙手をしてクラスの会長に直接頼み込むという前代未聞な方法で、早苗と同じ仕事の班になった。
 明らかに今までとは違う堂々とした來未はいつも以上に注目を集めていた。そしてそれに対して平然そうにしている。
 しかし、その一連の行動に早苗は引っかかりを覚える。周りの目を気にしていない。注目されることを恐れていない。普通では……ない。その注目は恋人である早苗にも届くの至極当然の事。
 早苗はクラスの男子たち、そして騎士からはやし立てられた。
 この普通ではない状況が早苗はとてつもなく不快だった。気持ち悪かった。吐き気がした。その気持ちを隠すように早苗はみんなの前で静かに笑う。
 受付を任された早苗と來未は二人で並んで次から次へとくるお客さんの相手をする。始めは次から次へとくるお客さんに焦っていたが、それもだんだんと慣れてくる。客足が落ち着いたころには受付の仕事もだいぶ上達していた。
「もう手慣れたもんだね」
 文化祭のパンフレットを見ながら來未がつぶやく。早苗はそのパンフレットを覗き込みながら答えた。
「そうだね。思ったよりも早く客足も落ち着いたし」
「ね、それがいいことなのかはビミョーだけど」
 早苗の視界の先に映る二人の姿に來未への返事を忘れてしまう。その二人は早苗に気づきと真っ直ぐに向かってきた。
「早苗?」
 返事がないことに違和感を感じた來未はパンフレットから目を離し、顔を上げると目の前に二人組の夫婦が建っている。見間違えるはずもない、その二人は紛れもなく早苗の両親だった。
「しっかりやってるみたいだな」「みにきたわよ、早苗の仕事ぶり」
「うん」
 早苗はそれだけ答えると淡々と仕事をする。
 來未は呆然と早苗の作業を見てることしかできなかった。小さい頃は何も感じていなかった早苗の両親の姿が今は怖く見える。
「來未ちゃん?だいぶ印象変わったのね、早苗と同じクラスで良かったわ」
 突然來未に対して放たれた早苗のお母さんの言葉。
「いえいえ、そんなことないです。私も早苗と一緒のクラスになれて幸せです。おかげで楽しくお付き合いさせていただいてるんで」
 はっきりと言いきった來未の顔は真剣そのもので笑ってはいなかった。早苗はその來未の態度に驚きを隠せない。明らかに今までの來未と何かが違った。
「こちらへどうぞ~」
 その案内で教室の中へ入っていこうとする親を呼び止めた。
「お父さん。聞いてもいい?」
「なんだ」
「騎士にはあった?」
「いや、何かあるのか?」
「ううん、何でもない」
 その言葉を最後に両親は教室の中へと入っていった。
「早苗の親来たね、私の両親は来ないと思う。それと。謝っとく、ごめん」
 來未の謝罪に少し驚いたが早苗は黙ったままその続きの言葉を待った。
「早苗が、親に私と付き合ってんの、隠してること知ってた」
 早苗は何も言えなかった。なんという言葉を返せば良い、
「この続きはあとでね、早苗のこと聞かせて?私も全部言わなきゃいけないから、隠し事はないし、あの時の誓。破ってたまんまじゃダメでしょ?」
「そうだね」
 來未は本当に変わった。まるで大人みたいだ。自分よりもうんと年上と話している気分。
「で、ちょっときいていい?」
「なに?」
「親が来るなんて思ってなかった?」
「……うん。来てほしくなかったから、クーポンが付いた文化祭への案内の紙、持ってか言ってはいなかったんだ」
「でも、お父さんが持ってたあの紙、一般配布用じゃなくて保護者用のだよね」
「そう、だから驚いたんだ。文化祭があるこの日を知ってるのはともかく、ここに来たこと、そしてあの紙を持ってることに」
「でもどうやって……」
「僕にも分からない」
 すると教室から出てきた会長がチェキ用の道具と集金用のおしゃれな箱を持ってくる。
「これでお客さん呼んできて貰える?ラブラブカップルがあなたの恋のキューピットになりますよーって」
「恋のキューピット?」
 來未の問いかけをはぐらかしながら会長は続けた。
「まあ要するに、この文化祭にぴったりな熱々お似合いカップルを売りにして宣伝してきてってこと」
 みんなの自信に満ちた眼差しに來未は笑って答える。
「そ、なら任せて」
 來未はひらりと振り返ると早苗の腕を引っ張っていく。二人の背中に「ほんとお似合い」「早苗は将来尻に敷かれんな」という声がかすかに届いた。
 それが早苗には不快だった。クラスの中だけでおさまることは無く、学校中の生徒に知られてしまう。それが普通の事か?いや断じてそんなことは無い。ああ、不快だ不快だ不快だ。イライラが早苗の中で少しずつ溜まっていく。
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