第16話 ストーカー

文字数 2,272文字

 その日を境に早苗との距離がまた開いた気がする。親の目があるから一緒に登校できない。帰りはまっすぐに家に帰らないといけない。成績がボーダーラインを超えるまでの条件らしい。
 気を紛らわすようにカンナちゃんたちと遊んだ。悪いことを考えてしまわないように。
 親の威圧で來未との距離が開いてしまってるのなら、まだいい。でも、一番最悪なのは早苗が來未の事を嫌いになってしまった場合のこと。事前と変わってしまった來未が早苗の普通からずれてしまったら、早苗の嫌いな普通じゃない方に行ってしまっているのだとしたら、多分もう持たない。
 以前と同じように数合わせで参加した合コン。カラオケの中にいる來未はコップに手を伸ばすとナオミが隣にやってきた。
 コップの結露でできた水滴が來未の手を濡らす。拭くためにハンカチを取り出すとナオミが声をかけてくる。
「そのハンカチつかってるんだね」
 微笑むナオミに來未もやさしく笑い返した。
「この前は届けてくれて本当にありがとう」
「ぜんぜん、いいよ。あれから調子どお?彼氏さんと幸せ?うらやましいよ、あんな幸せそうなカップル」
「でしょー、わたしめえっちゃ幸せ」
「はー僕も負けないよ?いい彼女作ってやる。そしたら一緒にデートしよ」
「いいよー」
 合コンの終わり際、ナオミが來未の耳元で小さな声で囁く。
「ごめんちょっとこのあと二人きりで話せる?相談したいことがあるんだ」
 解散間際であたふたしてたこともあり來未は素直にナオミに頷いた。解散後二人は並んで歩く。
 皆から離れて少し経った所でナオミは歩きながら口を開いた。
「なんかあったんでしょ」
 突然の言葉に戸惑いを隠せない。
「え?」
「無理して笑ってるのバレバレ、なんか今日一日ずっと元気ないよ」
「やだー、そんなこと」
 來未の言葉は力なく町中に消えていく。
 考えてはいけないのにもかかわらず早苗の事を思い出してしまう。嫌な感が蘇えってしまう。
「よかったら聞くよ?」
「ごめん、言えないの。でも、自信が少しなくなってて、今のままでいいのかなって」
 來未の曇った顔とは対照的にさわやかな微笑みを浮かべるナオミ。
「來未はすっごくかわいいし、それに前と違って自分の意志をはっきり持ててて、素敵になってるよ。だから、あんな幸せそうなチェキが取れたんだと思う」
「うん」
 ナオミは本当に優しいな、と思っている中少し違和感に感じる言葉があったのを機息逃さなかった。前と違って……なんで私の前の姿を知ってるんだろう。
 そして、歩いている方向は來未の家の方なのにも少し嫌な感覚。きっと気のせい考えすぎ、たまたまこっちの方に進んでるだけ。
 しかし、歩けば歩くほどそれは現実のものとなってくる。
「嘘をつくのは良くないよ」
「う、うん」
「そう、相手に嘘つくのは良くない。でも、自分の気持ちに嘘をつくのはもっと良くない。來未は変わりたくて変わったんだ、努力して変わったんだ。自分はどうありたいか、自分はどうなりたいか、よく考えて?そしたら少しは気持ち晴れるんじゃないかな」
 その言葉が來未の霧のかかった心に一筋の道を作ってくれる。
「ありがとう」
 心の底からそう思えた。変な勘ぐりが少し恥ずかしい。
「おー來未―」
 少し離れた所から豪快な叫び声が聞こえる。それだけで誰か分かったっ來未は、声の方へ振り返り手を振る。
「わー騎士」
「こんな所で何してたんだよ、って、ああ、初めまして騎士です」
「はい、初めましてナオミです」
 騎士とナオミはしばらく無言で見つめ合った後、軽く会釈をする。
「それでは來未さん僕はここで」
 そう言ってそそくさとその場から離れていくナオミを見つめてから騎士と一緒に帰り始める。
「さっきの奴は?」
「ナオミ。前に数合わせで参加した合コンで告白してきた人」
「告白⁉」
 大袈裟に驚き騎士に來未は笑いながら続けた。
「大袈裟。ちゃんとと断ったし彼氏いるって言ったの」
「んー」
「いい人だよ?早苗の事応援してくれたし、文化祭の時わざわざハンカチまで届きにきてくれた」
「そーだな、帰りも來未を家まで送ろとしてたみたいだしなー」
 來未はその言葉を聞いて思わず立ち止まる。嫌な予感が一気にぶり返してきた。
「お、おい。どうしたんだよ?」
「一緒に私の家まで……」
「おん。この前も早苗の家に何か届けてたみたいだしなー」
「ちょっと!それいつ‼」
 騎士に迫り問いただそうとする來未。その真剣な眼差しに戸惑う事しかできない。
「ね!いつ‼」
「えっと、確か文化祭の前あたりだった気が……」
 い彩な事に気が付きそうでクインはその場から逃げるように走って帰った。騎士が走って追いかけて來未を止めようとするも、もう來未は冷静で入られなかった。
「やめて!放して!」
 その言葉を最後に家に帰り自分の部屋に移動してからすぐにカーテンを閉めた。
 なぜナオミは來未の家をはじめから知っている様に歩いていたのか、なぜ來未の行動の気持ちの変化を知っているのか、なぜ文化祭の時、早苗のお父さんとお母さんが保護者用の紙を持っていたのか、そして、騎士が文化祭の前ナオミが早苗の家にいっていた。
 これが全て繋がっているとしたら、これはストーカー。文化祭の時に渡されたハンカチもきっと盗まれたんだ。
 どんな用途に使われたのか考えるだけで恐ろしい。気持ち悪い。
 ポケットから取り出したハンカチをゴミ箱に投げ捨て布団の中に体全身をうずくめる。
 誰かに見られている監視されている、そんな感覚がぬぐえない。気持ち悪い、吐き気がする。無理無理無理無理。

 それから來未は学校に来なくなった。
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