第17話 破裂の先

文字数 2,830文字

 それから來未は学校に来なくなった。
 騎士は固く締められカーテンで閉ざされた來未の部屋を見つめながらが今日も学校に向かう。來未の友達のカンナたちは何か知っているみたいだが、聞き出すことは出来なかった。本人の了承がないと私たちからは何も言えないって。
 その通りだと思う。変に情報が学校中に広まってないのを見ると來未のことを思っている大切な友達ようだ。
 現状を整理すると早苗とナオミが繋がっていて、來未はナオミにいい印象を持っていたが早苗とナオミに繋がりがあることを察してから、あんなに取り乱していた。やっぱり意味が分からない。
 ただこの状況だとナオミに要因があることは確かだろうが、早苗にも要因があることになってしまう。早苗が來未にそんなことをする理由が分からないし、そんな性格ではないことは知っている。
 今日も一人の早苗を横目で見ては考えていた。ここ最近の教室は以前よりも静かで居心地が悪い。
 あんなにお似合いで仲良かった、クラスの顔にもなっていたカップルの來未が学校に来ていな日が続いてるのだから、無理はなかった。
 だが、早苗はそんな空気な中、何も気にしていないかのようにケロッとしている。何も行動していない。本当にどうでもいいことのように変然としていた。
 早苗の事を信じているし悪い奴だと疑っているわけではないがその態度は気に入らなかった。
 休み時間に入ったと同時に席を立った騎士は早苗に話しかける。
「なあ、早苗。來未と何かあったのか?」
「別に何も?」
「じゃあ何で來未が学校来なくなった知ってるのか?」
「いや」
 その冷めた反応が騎士の心をいらだたせる。
「お前彼氏だろ?もっとなんかあるんじゃないのかよ」
 少し口調が強くなる。元々注目を集めやすい騎士と、今注目を集めている早苗の会話にクラス中が注目していた。
「まえもいったけど、こっちの関係に入ってこないでよ、僕も大変だから」
 早苗の聞き流していく態度に苛立ちを隠せない。何が大変だ、來未は学校を休んでるんだぞ。
 その怒りが抑えられず声色として漏れ出す。
「早苗と來未が恋人関係の以前に俺は早苗と來未の幼馴染だ、友達だよ、関係あるに決まってるだろ」
 遂に早苗は騎士の言葉を無視するようになった。その場にいないかのように涼しい顔で席を立つ。その態度にもう騎士の怒りは止まらない。
 立ち上がった早苗の胸倉を掴む。
「逃げんなよ。状況分かってんのか?普通はもっと心配するだろ」
 最後の言葉に早苗に目つきが変わった。
 握られた騎士の腕を無理やり振り払うと怒りに満ちか顔をむける。
「普通?お前がその言葉を口にすんな。いちいち噛みついてきやがって、何様だお前。よく考えろよ、お前がナオミの所行って何になるんだよ!違う学校の生徒たちの前だぞ、少しは自分のこと気にしろよ!」
「今更そんなんで傷つくかよ!逃げてるだけだろうが!」
「もっと頭で考えろ馬鹿が!何が馬鹿にされて傷つかないだよ!周りの気持ちがって考えろ、僕と來未の気持ちを!それに、矛先が別に向く可能性も考えろ!」
「だからって何もしないのか!すでに苦しんでんだぞ!普通は逃げずに助けるべきだろ!」
「普通、普通いちいちうざいんだよ!こっちにだっていろいろあるんだよ!」
「お前より來未だろ!のんきに涼しい顔しやがって、なんもおもってないのかよ!今もずっと苦しんでんぞ!」
「こっちだってお前らに振り回されてんだよ!どんだけ我慢してきたと思ってんだ!気づかってきたと思ってんだ!」
 そういって早苗は騎士の体を突き飛ばす。机と一緒に大きな音を立てて背中から倒れ込んだ騎士。立ち上がるとすぐに早苗に殴り掛かった。
「なにがきづかってるだ、來未がどれだけ早苗の事を考えて悩んでたんのか知ってんのかよ!」
「お前らだって僕の気持ちを知りもしないで!」
「必死になって変わろうとして変わった奴に、また何かを求めんのか!お前は來未のために何をした!」
「そのせいで苦しんでんのはこっちなんだよ!なんも知らないくせーにでしゃばんな」
「知るわけねーだろ!人の努力を貶すな、思いを踏みにじるなこのゴミが!」
「それはお前らがいつも何食わぬ顔でしてんだろ!」
 互い顔にあざを作り、口を切ったのか口の中は血まみれだった。怒鳴り合いの喧嘩のせいで喧嘩で唇は血だらけ。早苗と騎士の友達が手を合わせて止めに入るが、ののしり合いは止まらない。今にも暴れ出しそうな二人を止めたのは先生だった。
 その一部始終をカンナはスマホで撮っていた。『あんたはこのままでいいの?あんたにとって何物にも代えられない宝物でしょ』その思いを言葉に変え、動画と一緒に來未に贈る。
 すぐに既読はついた、でもそれに対しての返信はなかった。 
 
 來未の部屋はカーテンに固く閉ざされ外の光はほとんど差し込まない。荷物はぐちゃぐちゃに部屋に散らかり、お菓子の袋と空き缶がちらほらと落ちている。
 ベットの上で送られてきた動画を見ていた來未は布団にくるまりながら、ただひたすらに泣いた。
 騎士が私を心の底から心配してくれている。私のために全力で助けようとしてくれてる。
 騎士は早苗と同じ高校に行くための勉強をつきっきりで手伝ってくれた。理由を言わなくても真剣に向き合ってくれた。早苗のことについていつでも相談に乗ってくれた。早苗に告白する時も手伝ってくれた、勇気を与えてくれた。そして、デートの時も背中を押して私と早苗にきづかってくれていた。それにも関わらず私は何も恩返しができていない。
 騎士の家は片親で、大変なはずなのにもかかわらず。私はあの時の事を一度も謝れていない。償うこともできていない。ただ忘れようと逃げていた。
 騎士の優しさと騎士への罪悪感が來未の胸を締め付ける。
 それに続き早苗の胸の内に秘めて不安が現実のものとなって來未を襲っていた。來未の予想は的中していた。今の來未は早苗にとっての普通から逸脱していた。
 文化祭の時、早苗はたくさんの人に注目されていた。それからずっと注目され続けている。そして、來未が学校へ行かなくなったことにより、皆の目線はより一層強くなったんだと思う。皆に流されるように空気を読むことだけ考えていた経験がある來未は少しだけ早苗の苦しみを理解することができた。
 家でも肩身の狭い思いをしている早苗のストレスが溜まって、來未の不登校が重なり爆発してしまった気持ちも分かる。
 殴り合いになっても、それでも、騎士の心を傷つけまいと直截的は表現を抑えている早苗の姿を見てはいられなかった。それでも、最後まで見ないといけないと思った來未は目をそらさなかい。動画に映る早苗のその姿は來未の胸をより一層締め付ける。なぜなら、來未は自分の保身のために早苗とは違い騎士を傷つけたから。
 バラバラになるのはもうヤダ。今のままの自分もヤダ。
 泣き疲れた來未は布団の中から体を起こし小さく枯れた声でつぶやいた。
「……向き合わないと……過去に」
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