第22話

文字数 2,826文字

 台湾に着くと大量の見慣れない文字と聞きなれない言葉が來未を襲う。
「すごい」
 來未の隣でカンナちゃんがそう呟いた。
「ね、私海外来るのはじめて」
 案内されるままにバスに乗り込み今度は二人席でカンナちゃんと隣同士になれた。
 意外と日本に近い街並みで高い建物が多い。バスはしばらく進みホテルの前で止まった。荷物を二人部屋に運ぶ。もちろんカンナちゃんとの同居。
 すぐにホールに戻されるとまたバスでで移動が始まった。
 着いた場所は台湾でも大きく有名な烏山頭ダム。観光案内薬の人がこのダムを作った人の墓の前で説明してくれた。日本字が建てたみたいだけど、いまいちよく分からない。
「ダムって言う割には小さな―」
 騎士が魔らした言葉にカンナちゃんも同調する。
「私も少しそれは思った」
「ねー、もっと縦に大きいのかと思った」
來未はそう言いながらもみんなと一緒に横に広がる広いダムの湖を見る。
 皆がはしゃいで遊んだり湖を眺めている中、早苗がボソッと言う。
「皆ここで写真撮ったりして、はしゃいでるけど、奥さんここで自殺したんだよね。……自殺スポット」
 皆が驚いたように早苗を見るが、本人はつまらなそうにぼーっと湖を見つめている。どこか悟ったような。
「いや、全然笑えねーぞ。確かにそうだけど不謹慎過ぎだぞ」
 騎士が早苗に突っ込みを入れながら、観光案内の人に着いて行く。
 ダムの周りをしばらく見て回った來未たちは爆買い度に案内されるがままバスに乗り込む。
 次に連れていかれた場所は九份。
 観光案内の人の話によると有名な日本映画の舞台になった見たい。來未もカンナちゃんもその映画のタイトルは聞いたことあった。
 バスが目的に着いた。でもそこは駐車場でまだ九份じゃないみたい。
 案内されるままに着いて行くと、密集した昔ながら建物と細い階段が永遠に続いている。観光客もすごく多かった。
 來未はカンナちゃんと一緒に写真を撮りながら長い階段を上っていく。映画さながらの雰囲気に気分も高揚してテンションが上がる。そのまましばらく階段を登ったところで後ろをふりむくと、絶景が出迎える。細い道の左右にあふれんばかりの建物が会談のように立ち並び、その奥に森が広がる。
「ひょっとしたら映画よりもきれいかも」
 來未の隣にカンナちゃんも並び言葉を返してくれた。
「ええ」
 來未とカンナちゃんはそのまま絶景に見とれて立ち止まる。
「ねえ、カンナちゃん」
 來未はふと気になっていた気持ちを思い出し名前を呼んだ。
「なに」
 カンナちゃんは相変わらず冷めた感じでそう短く答える。
 別に何かされたわけじゃないけど、カンナちゃんの言葉を聞いて思わず口籠ってしまう。不安になってしまう。もしかしたら、離れ離れになってしまうんじゃないかって……。理由も根拠も何もないけど咄嗟にそう感じた。
 自分の気持ちを確かめるためにも來未はそんな気持ちをわきに置いて言葉を続ける。
「騎士のこと好き?」
 來未はカンナちゃんの方を向けなかった。怖かった。
 返事を返さないカンナちゃんはわたしと同様振り向くことなくただ景色を見つめる。
 永遠に続くようにも思えた二人の空間に横やりが入った。
「おーい、行くぞ」
 騎士の言葉にいち早く反応したカンナちゃんは來未を置いて騎士の元へ歩いて行く。
 まるで答えを示しているかのように。
 またバスに乗せられて着いた場所はとても大きな建物だった。中に入ると広い会場になっており、たくさんのテーブルと料理が用意されている。
 バイキング形式のその会場で皆が思い思いの物を取り食べ友達同士自由に会話する。
 班で固まってたこともあり、來未はカンナちゃん騎士、そして早苗と一緒に料理を取りに行く。何があるのか見て回っていると、気づけばみんなと少し離れていた。
 カンナちゃんの方を見ればまた騎士と話している。今度はカンナちゃんからも何かを話しているみたいだった。
 來未は会話に入ろうとカンナちゃんの元へ向かおうとすると後ろからもねと志津が声をかけてくる。
「やっほー」
「くみち―」
 來未は振り返り小さく手を振った。
「來未はそれにすんのね」
「あっちのパスタうまいよー」
 志津がそう言って指さした場所は騎士とカンナちゃんとは反対方向だった。
 それからたわいのない会話をするけど、どうしても騎士とカンナちゃんが気になって会話に集中できない。
 ついに我慢できなくなった來未は無理やり話題を変える。
「カンナちゃんって、騎士のこと好きなの?」
 その問いかけに二人は一旦口を紡ぐともねが來未の瞳をまっすぐと見つめる。
「それは本人からきいたほうが良くない?」
 その通りだった。口籠る來未に続けて志津が口を開く。
「それよりも、自分の気持ちに答えだす方が先~」
 二人の言う通りだった。
 もねと志津と別れた來未は考え込むようにさっき進めてくれたパスタをとりに行く。
 大きなステンレスの容器に入っているパスタの前に着いた。心ここにあらず状態の來未はトングに手を伸ばすと、誰かの腕を掴んでしまった。
「ああ、ごめん」
 我に返った來未は慌てて手を放し謝る。そして掴んでしまった腕の主を見ると、見たことある顔に安心して、自分のお菓子な行動に笑ってしまう。
 相手は、木下くんだった。
 笑っている來未とは対照的に戸惑っている木下くん。きっと私の謝罪に耐えして返す言葉とタイミングを失ってるんだと思う。
「まただね、うちらこんなこと多いね。ついてないんだね」
「……別にそんな事はない」
 トングでパスタをよそいながら言う木下くんの声は小さかったけど確かに來未の耳には聞こえた。
「木下もそれ食べるんだね」
「……うん」
 相変わらずもじもじしている木下くんに來未は続ける。
「飛行機の時、普通に話せるようになったじゃん、この短期間でリセット?」
「う、うん。リセットされちゃった、少し離れてるけど」
 そう言ってトングを渡してくる。來未は受け取らずに意地悪に笑った。
「うちのぶんもよそってよ、そしたら慣れるでしょ」
 固まってしまった木下くんは勇気を振り絞ったのか、來未の腕を引いて零れないよう容器に來未の皿を近づける。
 木下くんの手が震えていることに気が付いた。気持ちを共感することはできないけど、見せてくれたその勇気に力を貰ったのは事実だった。
「手、震え過ぎ。そんな緊張すること?」
 來未の言葉に木下くんの声が少し大きくなって、への震えも少し落ち着く。
「仕方ないよ。こっちは女子の手触るの小学生以来だから」
 驚きと同時に少し可愛いとも思った。それ以上に、言い返してこれるだけの余裕が生まれてくれたことに來未は嬉しさを感じる。
「あ、それぐらいでいい。ありがと」
 木下くんにお礼を言った來未は背をカンナちゃんを探す。カンナちゃんは相変わらず騎士と何か話しているみたいだった。
 特に行くところのなかったけど、ここにいてもしょうがないと感じた來未は移動を始めた。
 人の迷惑になってもあれだし。
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