第25話 ホテル

文字数 2,299文字

 ホテルに戻った來未はカンナちゃんと同じ部屋。
「風呂入る?」
「あー、はいるわ」
「おっけー」
 ユニットバスの浴槽にお湯を張った來未は部屋に戻る。荷物を整理し終えたのかベットの上で横になりスマホを確認しているカンナちゃん。
 それを見て來未も同じようにベットで横になる。
 変に意識してしまったせいか緊張してしまう。話を切り出せないでいるとお湯が溜まった。
「さきいいよ」
 その言葉に黙って頷くカンナちゃんはお風呂に入っていった。しばらくしてカンナちゃんが出ると來未も入れ替わるように浴槽に入り頭と体を洗う。
 お風呂を出ると何を言っているか分からないテレビをぼーっと見つめているカンナty単がいる。
 來未が出たことに気が付くと入れ替わるようにユニットバスに入っていくカンナちゃん、たぶんトイレ。來未は何も気にかけずお風呂後のいつものルーティンを行う。
 するとトイレを済ませたカンナちゃんが來未の後ろに座る。
「どうしたの?」
「乾かしてあげる」
「ありがとう」
 ドライヤーを手に持ったカンナちゃんが優しく髪を乾かしてくれる。そい上羽カンナちゃんって下に妹と弟がいたんだっけ。鏡越しで見えるカンナちゃんの表情を見て、改めて長女だなって感じる。
 髪を乾かして貰った後、何もすることがない二人は早めに部屋の電気を消し眠りにつく。
 結局話しそびれてしまった。身動きをとらないカンナちゃん、きっと疲れたんだと思う。私もなんだかんだで、疲れがたまってるのを感じた。楽しかったぶん、疲れる。きっとカンナちゃんも同じで楽しかったんだと思う。
「來未」
 少ししてからカンナちゃんが小さな声で私の名前を呼んだ。
「……なに?」
 寝てしまったと思っていたカンナちゃんに名前を呼ばれ驚いた來未は少し口籠る。
「騎士の事……多分、好き」
「……そう、だったんだ」
 カンナちゃんからのカミングアウトに、そして予想ダニもしていなかった言葉に戸惑いを隠せなかった。
 そうだったんだ、カンナちゃんは悩んでた。だから、あの時答えられなかった。
「うち、なんだかんだ今まで自分から人を好きになったことなかった。いいよられて、ホテルとかでの流れで付き合うことになったことは何度かあったけど……」
「うん」
「來未ならわかるでしょ……どうしようもなく寂しくなることがある。どうしようもなく辛くなることがある。そんな時、逃げるようにセックスをする。空っぽな体を満たしてくれる、そんな気がするから。一時的にも満たされるから」
「うん、わかるよ」
「騎士と話してる時、そんな感じに近い感覚がするの。寂しさを覆ってくれてるような」
「そうだったんだ」
「來未は知ってるんだろうけど、騎士の過去の話、家の話、夢の話、聞かせて貰った。それで少し、うちがどうして騎士にそんな気持ちにさせられたのか分かった気がした。うちも流れで言ったんだ、自分の事。親が片親ってこと」
「うん」
「だから騎士へのこの気持ちが、親近感からなのか、恋からなのか分からない。……ねぇ、來未はどっちだと思う」
 來未は深く考えず流れるように答える、直観的にそう感じたから。
「好きだと思う」
「……」
 カンナちゃんからの返事は何もない。
やっと答えが分かったにもかかわらず別に何も感じなかった。それにも関わらずなぜか來未の心の中にある靄が晴れない。
「応援するよ」
 意識を逸らすようにカンナちゃんに声をかける。
「いいの?」
 そんな戸惑いを含み声に來未は小さく笑った。
「はじめはすこしもやっとした、だけどっきっと私は騎士を好きじゃないと思う。好きになれると思うけど、たぶんカンナちゃんの思いの方が強いって私は思う。それに、騎士の相手がカンナちゃんなら安心。あるひとにいわれたんだけど、私のこの気持ちはきっと嫉妬なんだって。ほら、全然違うでしょ?」
 來未の笑い声に乗ったカンナちゃんが聞いてくる。
「だれ、それいったの」
「木下だよ」
 笑って答える來未。
「あいつがそんなこと?ってかいつの間に?」
 今度は來未がカンナちゃんに事の経緯を説明した。
「木下の言ってること半分あってると思うわ、近くの席ってこともあったけど、來未話しやすいって思って一緒にいるようになったからね。そういえばあったばかりの時は今とだいぶ雰囲気かわった、もっと落ち着いてて冷めてる感じ、うちらに合わせて髪染めたでしょ。その行動も合わせて、誰にでも合わせる才能はあるんじゃない」
「カンナちゃんもそう思うんだ。意識したことなかったけど……一応、ありがとう」
「うちも、ありがとう」
「いいよー、それより私手伝うよ?カンナちゃんの恋」
「別に……そんな事より來未は例の木下の事気になってる?」
「博人のこと?なんで急に全然そんなことないよ!」
 少し声を荒げてしまう來未に落ち着いているカンナちゃんが声を指す。
「別に來未がああいう陰キャ好きになっても別に何も思わないけど、來未はそう言うの一切気にしないし合わせられるでしょ」
「カンナちゃんは気にしないの?」
 その言葉に少し驚きを見せるカンナちゃんに來未は逆に驚いた。
「別に、なんぜ?來未が好きなら自由にすればいい、したいようにすればいい。うちは別に見下したりはしない、ただの特徴なだけでしょ」
「そうだったんだ……じゃなくて、私別に博人のこと好きじゃないからね⁉」
「そうなの……でも少なくとも木下の方は明らかに來未のこと好き名みたいだけど」
 暫く口をとざした來未ははっきりと言い切った。
「そうだとしても私は態度を変えるつもりはない、もちろんちゃんと向き合うよ」
「まあ、別に好きにしたらいいと思うけど……お互い自分の信じた道を頑張りましょ」
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