第5話

文字数 2,275文字

 遊園地に入ると左右にコーヒカップとメリーゴーランドが姿を現す。
 入り口から少し進んだ所で三人は止まった。
「え、いかねーの?」
 騎士の問いかけに早苗も來未もすぐには答えなかった。少しの間を開けてから早苗が答える。
「來未は何乗りたい?」
 こういう時、小さい頃から人にゆだねてきた來未はうまく答えられなかった。これに乗りたいなんて欲求はうまくわいてこない。
 自分で選ぶことが苦手な事知ってるのになんで私に聞くの?そんな自分勝手な考えを訴えるように來未は早苗の顔を無言で見つめた。
 朝、何も言ってくれなかったことをまた意識してしまった。
 すると私の疑問に答えるように早苗が口を開いた。
「來未から誘ってきたからなにか乗りたいものあるのかなって思たんだけど、いつものね」
 その言葉來未には刺さった。
「ああ、いつものか。苦手だもんな昔から、ほんと変わってないな」
 騎士が豪快に笑う、それをどこか冷たい目で見つめる早苗。
 來未は無言のまま静かに下ろしていた左手でワンピースの裾を強く握りしめた。
「さ、早く行こ」
 早苗が來未に一歩近づいて言うと少し強引に右手を掴み歩き出した。引っ張られるように着いて行く來未の後ろを騎士がついて歩く。
 なぜか最近昔のことをよく思い出す。あの時、私たちがまだ小学生になったばかりの頃、いつも私はこうやって真ん中にいた。
 そして高校生になった私は今、あの頃から片思いしていた人と付き合い、一緒に遊園地に来て、今こうして手をつないでる。
 あの時と少し一緒で少し違う。この小さな幸せを私は強く握りしめた。

 メリーゴーランドの前に着いた早苗が立ち止まる來未に聞く。
「どうする?」
「どっちでも」
 そんな二人の会話にじれったさを感じる騎士が割り込んだ。
「はいはい。二人で行ってこい。写真は任せろ!」
 背中を押した騎士は列に並ぶ二人に元気よく手を振っていた。

 早苗が内側、來未が外側、隣に並んで乗ると少ししてから回り始めた。
 外周を見ていると騎士がスマホを片手に笑顔で手を振っている。
「あ、あそこに騎士がいるよ」
「うん」
 來未が指さして言うと、早苗が志津香に返事を返してくれる。
「なんか乗ってる私たちよりも楽しそうにしてるね」
 來未のその言葉に返事はなかった。少し気になった來未が振り返ると同時に早苗は笑って答えた。
「そうだね」
「うん」
 早苗の笑顔につられるように私も微笑んだ。

 それからいろいろなアトラクションを回った。お店では三人でおそろいのキーホルダーを買った。
 気が付けばすっかり日は暮れてしまっている。
「最後は観覧車に乗りたい」
 來未の言葉に早苗と騎士が同時にうなずく。それから三人で観覧車の長い列に並んだ。
 この遊園地ですっかり打ち解けた三人は気まずさなんてなく他愛のない会話を楽しんだ。あっという間に出番が回ってきた丁度その時、早苗の携帯が鳴った。
 静かにスマホ取り出し確認する早苗。
「次のお客様、お乗りください」
 來未が従業員の言葉に促されるように乗り込んだ。騎士は早苗を待つように外側に立って従業員さんに乗りませんと手をかざす。
「乗りたかったんだよね、ごめん二人で乗って、僕は帰らないと」
 スマホを確認し終えた早苗が言うと、騎士の背中を押し乗り込ませてくる。
続いて従業員に言う。
「すみません、行ってください」
 すると、早苗は急いで引き換えし走っていく。
 観覧車の中に早苗と騎士が二人で取り残された。現状に戸惑っていると二人同時にスマホが鳴る。お互い顔を合わせ、早苗からの連絡だと相槌をうった。
『ごめん、門限に間に合わなくなるから帰る。観覧車楽しんで』
 ゆっくりと上がっている観覧車の中から走っている早苗の後ろ姿が見えた。
「はぁ……」
 ため息をつきながら椅子に座る騎士。來未は向かい合うように腰を下ろした。
「そうだったね。早苗くんの家少し厳しんだった」
「それでも楽しんでって……。來未はただ観覧車に乗りたかったんじゃなくて早苗と一緒に降りたかったのに」
「……。騎士は本当にやさしいね。ありがとう私の分も悲しんでくれて。でもいいよ、こればっかりは仕方がないし」
「でもさ、カップルだろ。付き合ってんだろ」
「私成長できたと思ってた。変われたと思ってた。……でも結局何も変わってない。変わったのは見た目だけ」
「それでも十分変われたじゃねーかよ」
「ううん、違う。自分の意志で変われたんじゃなくて、年を取るのと同じように、体の成長と同じように変わっただけ」
「それでも変化は変化だろ。それに告白したのは來未からだ、それに遊園地に誘ったのだって。だから、十分変わってるよ、あの時と比べて……それにそこまで無理に変わらなくてもいいと思うぞ」
「なんで?」
「早苗ならどんな來未だって受け入れてくれるよ」
 満面の笑みではっきりと言い切る騎士におかしさを覚え笑いがこみ上げてくる。
「なにそれ。何であんたが自信気なのよ」
「何でだろーな」
 二人でしばらく笑いあっている間に頂上に来ていた。
「ありがとう騎士」
 驚いた様子で來未を見つめる騎士。
「なんだよいきなり」
「いつも手伝ってくれて、それに支えてくれて」
「幼馴染なんだしそれくらい普通だろ」
「そんなものなのかな?」
「早苗ともいつもこんな風な事話してるのか?」
「ううん……はなせてない」
 外の岸城を見つめながら静かに答える來未に騎士がフォローを入れる。
「まぁ、そのうち話せるようになるだろ。次は二人きりで本当のデート頑張れよ」
「うん、ありがとう」
 夜空に浮かぶ二人は胸の内を隠すようにネオン輝く夜の街に落ちていく。
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