第7話 カラオケ2

文字数 2,702文字

 騎士は同じクラスの男子たちとお酒も入ってはいないのに酔っぱらったように叫び散らかしていた。
 ある程度歌い終わり、落ち着いたところに頼んでいたお菓子が運ばれてくる。
「俺トイレ行ってくるわ」
 騎士は一言いい、立ち上がる。皆も声や手を上げるなどの反応を示してくれた。
 トイレに向かっている途中、見慣れた男が通り過ぎる。いつもとは雰囲気が違いとてもそわそわしていたために一瞬誰だか分らなかった。それでもその顔には見覚えがある。
 すぐに振り返り、その男を見る。どの男は早苗だった。
 ただ早苗はまだ騎士に気付いてはいないようだった。早苗の向かってる先には來未が立っている。來未はカウンターで会計を済ませている。どうやら同じカラオケに来ていて、そして先に帰るみたいだった。
 それにしても早苗のあの態度が気になった。
 騎士はトイレをしながらぼーっとすれ違った時の事を思い出す。何かあったはづだか、まるっきり見当がつかない。
 トイレを済ませた騎士が部屋に戻るとみんな揃って俺を見つめる。どうやら騎士の帰りを待っていたみたいだった。
 騎士が席に着いてお菓子を口に頬張ると。友達の一人が聞いてくる。
「なあ騎士、來未とは幼馴染なんだろ」
「ああ」
「その間に恋関係何もなかったのかよ」
「なかったな。でも來未はずっと早苗に片思いしてたらしいけど」
 すると他の奴が言う。
「なんだ。なら最初っから決まってたんじゃん」
「で、騎士自身は來未のことどう思ってんだ?」
 その言葉に一瞬詰まる騎士。変に詰まったせいで皆が次の言葉に期待した。
「友達以上恋人未満……じゃねーか?一応幼馴染だし」
「なんだよそのはっきりしない感じ」
 するとさっきの奴が同じように声を挟んだ。
「あ、わかった。もしかして幼馴染としてしか見てない?」
 その言葉に騎士はあきれるように答える。
「あたりまえだろ、別にいままで何もなかったんだから」
「でも最近その何かがあっただろ。早苗と來未付き合い始めたじゃん」
「まあ、そうだな」
 騎士はしぶしぶ納得すると、これ見よがしにまた横やりを入れてくる。
「なあ、なら今考えてみようぜ」
「なんでだよ。もう早苗と付き合ってんだろ」
「良いじゃんいいじゃん」
 騎士はその言葉を聞いて考えてみることにした。それでもやっぱりぴんと来ない。
「いや、わかんねーわ。好きって言えば好きだけど、特に告白したいとまでは思わないな」
 渋い反応が返ってくる。皆の疑いの目が騎士に注がれた。
「そりゃー友達として好きとはまたちょっと違う好きって感情を抱いてるよ。……でも來未とは幼馴染だからな」
「騎士は早苗が來未のこと好きだって知ってたのか?」
「そういう話とかしたことなかったから知らないなl」
「へー」
 騎士は何か、記憶を探るように口を動かす。
「でも……あの感じだと……。直観だけどな、……俺と同じような気持ちだったと思う」
「じゃあもし、騎士が來未に告白されたら付き合うのか?」
「……たぶん……な」
 すると一人のマイクを持ちながら席を立つ。恐らく次に歌うのだろう。
 マイク越しでなぜか盛大に脚気着けながら言う。
「まぁ、恋ってのはタイミングが命だしな」
「お前がそれ言うかよ、元カノにまだ未練たらたら野郎が~」「振られちゃったもんな」
 そんなヤジが飛ぶと曲が流れ始めた。



 ショッピングセンターに着いた來未と早苗は一緒にお店を回る。特に何か目的があるわけではなかった。
 早苗がそんなに遅くまで外に入れないため、カラオケの帰り道立ち寄ったのがこのショッピングセンターだった。
「気になる?いいよ」
 早苗がそう言い立ち止まる。
「ありがとう」
 來未は感謝をして洋服店に入っていく。
 レディース専門店のその洋服店に入る気が起きない早苗は少し離れた所から來未を見守る。
 周りを見てもやはり男性はおらず間違いなく浮いてしまう。
 そんな普通ではない光景を想像していた早苗は一人静かに身震いを起こす。
 女性は買い物に時間がかかると聞いたことがある早苗だったが、余りの遅さに少しいらだつ。自分から振った提案で自業自得だが、待たされている方の気持ちも考えてくれないのだろうか。ただ來未の性格を考えれば時間がかかるのも重々理解はできた。
 來未の自分の意志があまりない性格はめんどくさいと感じても嫌いではなかった。なぜなら、集団でいる時、來未の取っている行動が『普通』だからだ。変に反抗することも、否定することもなく水のようにその場の流れに従う。
 來未の性格がその行動を肯定している。だから嫌いにはなれない。むしろ参考にし、より自分の行動を普通にすべきである。
 それから少しして來未が戻ってきた。毛局何も買わなかったみたいだ。
 申し訳なさそうに下を向きながら戻ってくる來未。
 反省しているようには見えるが來未からの謝罪の言葉が出てくることは無かった。早苗ももちろんそんなことに突っかかる気はなかった。それが普通な行動ではないと感じたから。
 普通ならこうするだろう。
「じゃあ、かえろっか」
「うん」



 來未は家に着くなり自分の部屋のベットに体からダイブする。
 そして、枕に顔を押し当てながら意味もなくただ叫んだ。早苗のあんなかっこいい姿を見たことなかった來未はただ無邪気に足をばたつかせる。
 それからしばらくして冷静になった來未は直ぐに枕から顔を離し、メイクが付いてないか確認する。幸いついてはいなかった。
「はぁぁ」
 大きなため息が來未の部屋に立ち込める。
 服を見ていた時の自分の行動を思い出した來未の大きなため息だった。
 早苗の優しさに甘えて服を見ていたはいい物の自分の性格状、時間府がかかることを忘れていた。早く決めないとと思えば思うほどどれがいいかわからなくなる。
 結果長い時間待たせてしまった。それに何も買ってない。
 早苗の善意で服を見せて貰っていたのに、時間かけて何も買わないで……。でもそんなことで気を重くしたら良くないと思った。
 早苗とのデート中。楽しい時間にしたい。それに、私のためを思って洋服店を進めてくれたのに、落ち込むのは違う。それだと更に早苗に気を使わせてしまう。ただでさえ早苗は私の悪い性格をわかっているのに。
 早苗とは身近なようで遠い存在だったと來未は今日改めて実感した。カラオケの時の見たこともないあの姿。それに、洋服店の時のあの気遣い。
 三人で行った遊園地の時とはまた全然違った、大人びた早苗の姿を見れたきがした。
 そうしているとカンナちゃんたちのグループから今日のデートがどうだったのかと質問が飛んでくる。
 來未は体を起こすと気持ちを切り替えるように楽しそうに返事を返した。
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