第9話 夏休み明け

文字数 3,014文字

Kanna『で、來未その日開いてんの?』
くみちー 『ごめん。予定入ってる』
もね   『予定って早苗とでしょ』
しぃ   『絶対そう!』
くみちー 『そう』
Kanna 猫のOKスタンプ
もね   『予想通りだわー』
しぃ   『これは簡単すぎでしょ』
くみちー 『ごめん』
もね   『別に謝る必要なくない?元々そっち優先で話始めたんだから』
しぃ   『くみちー、誘い方の違いで分かるでしょ』
Kanna 猫の大丈夫スタンプ
もね   『だからそのスタンプ……。じゃ楽しんで』
しぃ   『微妙にブサイクな猫。くみちーまた』
くみちー 『うん、ありがと。またね』

 夏休み。早苗が來未の家に来るのは日課のようになっていた。
 早苗の家にはこれと言って遊ぶものはなく來未の部屋の方が充実していた。だからいつも私の家。
 小さい頃から來未の部屋で遊んでいて部屋を熟知してる早苗はいつも部屋を綺麗にしてくれる。来た時よりも美しく。
 小学生の時に教わった教えをしっかりと今でも守り続ける早苗に來未は少し甘えていた。部屋を綺麗にするのが苦手だから。
 相変わらず早苗から誘うことは無く來未からベットに誘い、お互いの愛を再確認する日々が続いた。
 ある日、來未は前前から気になっていたことを聞いた。相手が気にしていることではないかと思ったから今まで聞けなかったけど、勇気を出して聞いた。
「早苗って昔と比べてだいぶ変わったよね」
 こんなことかもしれないけど來未には引っかかった。なぜなら來未が恋した時の早苗はもっと違ったから。
「そうかな」
「うん」
 早苗のそっけない反応に來未は小さく頷く。
「例えば?」
 優しく聞いてくれる早苗に來未はゆっくりと口を開く。
「昔はもっと元気がよくて明るかった。……今は、静かになった」
 早苗は思い出すように言葉を選ぶ。
「昔って小学生の頃だよね?僕は転勤族だったから小学生の途中から高校まであってなかったし。それはあの時と比べたら変わるよ」
「そうなんだけど……」
 口籠っている來未に早苗は続ける。
「そんなに?ごめん、あんまり覚えてない」
 頭の後ろに手を当て早苗。
「うん、昔は騎士よりも明るくて活発で皆を引っ張ってってくれてたんだよ」
 來未の言葉に早苗は目を見ひらいて驚くと静かに笑った。
「そうだったんだ、あんまり昔のこと覚えてないんだよね」
「早苗はわたしに聞きたいこととか何かないの?」
 その質問に早苗は思いのほかあっさりと短く言い切った。
「ない」
 正直驚いた。だけど、早苗には早苗の考えがあるんだと思い來未は黙って頷く。
 早苗の知らない來未、來未の知らない早苗。まだまだたくさん知らないことがあるのをひしひしと感じたがその先に踏み込む勇気はなかった。
 その臆病さを自分から言い出さないのは聞かれたくないことなんだと置き換える。

 そのまま月日が過ぎていき夏休みが明けた。あっという間。
 早苗の家が厳しく、夏休み中にどこかに遊びに行くことは出来なかった。
 多分、夜に遊んでいるような見た目の明らかなギャルの私の事をよく思われていないんだと思う。
 來未と早苗が付き合って初めての高二の夏休み、早苗のお父さんと目が合った。その時に一瞬見せた鋭い目線が忘れられない。早苗のお父さんはきっと私を嫌っている、初めてのデートでも遊園地で夜遅くまで遊んでしまっていた。それにでも今までしてきたことを考えれば自分が全うな人間ですとは思えなかった。
「おはよう」
 來未が席に座って考え込んでいると少しだけ懐かしい声が聞こえる。
「おはよう」
「何考えこんでんの」
 意外と察しがいい隣の席のカンナちゃんが席に座りながら聞いてくる。
「私って意外とわがままな性格してるんだなって」
「なになにー病んでんの?生理?」
「何言ってんの?」
 もねと志津がカンナちゃんの元に合流する。
來未はもねの言葉におはようとだけ返した。
 それからたわいのない会話をしているとすぐに授業が始まる。
 お昼になるとまた四人で集まってくだらない話を始める。
「意外と草食系なんだ」
「見た目通りじゃん」
 來未の恋人に好き放題言うもねと志津、嫌だったけど來未は何も言えなかった。それに、べらべらと正直に話した自分に非があったから。
「そういえばこの前カンナがナンパされてさ」
「そうそうあれウケたわー」
 会話の内容が唐突に変わる。
「別に」
 カンナの冷めた対応にもねと志津は笑いながら來未にはないし始めた。
「カンナに道が分からなくて―って聞いてんの。で、どこ行きてーの?ってカンナが聞いたらさ」
「君の家」
 もねの言葉に志津が決め台詞の様につづける。
 ギャラ笑いする二人を見てカンナちゃんもクスッと静かに笑った。
「そうそうそう!」
「あの顔―!」
 また志津が面白おかしく顔芸をするとモネとカンナちゃんが笑い、來未も同様に合わせて笑った。
「そ、そしたらさ。カンナこう言ったったの。いいよって。そしたらそいつ目輝かせてさ。次にカンナがうち実家に住んでっけど、って言った瞬間男逃げてったの」
「まじウケるんだけど」
 暫く笑い合い、落ち着いてからもねが言う。
「夏休みで私服だからって、高校生に見られずナンパされるってやばくない?」
「まじそれ」
 それに対しては來未も同意見だった。
「私服の時のカンナちゃんって本当に大人びててモデルみたいに美人」
「な、何言ってんのあんたら?ん、んなわけねーし」
 わかりやすく照れるカンナちゃんが可愛かった。
 すると突然もねのスマホが鳴る。それを一目確認するとため息をついてスマホを閉じた。
「どーしたん?」
 志津の言葉にもねは返す。
「海の時にあったあの男いたでしょ、あいつ」
「交換したんだ」
 夏休み來未は早苗とどこにも行けなかった。三人で遊んで楽しんでたんだと考えると疎外感を感じる。來未は今年夏らしいこと何もできていなかった。初めて早苗と付き合えたのに。付き合う前はたくさん遊んでいたのに。
 來未はそんな無駄な思考を無理やり忘れ、もねと志津の会話に意識を向ける。
「そ、でもまた三人で遊ぼ―ってさ」
 だるそうに続けるもねに嫌そうに同情する志津。
「なにそれ、絶対カンナ狙いじゃん」
「そー。しかもうち相手したけど絶対体目当てー」
 もねの言葉を遮るようにカンナちゃんが言葉を挟む。
「いいよ、相手してやっても」
「違うの、あいつ前戯もないくせーにいきなり激しくてくんの。しかもあっちが終わったらそれですぐに終わり、不完全燃焼だし痛いしで最悪」
「それはねーわ」
 冷たいカンナちゃんの同情に大きく頷くもね。
「でしょー、志津の相手はどうだったのよ」
「もねの相手程じゃないけど、こちもビミョー」
 写真やトークを見せ合いながら夏休みの思い出を楽しんでいる三人にただ合わせて笑うしかなかった。
 こんな自分の事を汚い下品だと思いたくはなかった。そうすれば自分を否定するし、この三人も否定することになる。來未と付き合ってくれている早苗のことも否定することになる。
 それでも、早苗のお父さんのあの冷たい目線が、早苗のお母さんの相手にされず流された会話が來未の在り方を否定する。
 世間的に來未のようなあから様なギャルより、早苗の家のようなしっかり育てられてる家の方がよく見えることは事実で、好きな相手の親を、早苗の両親を否定なんてできなかった。
 早苗の誰も馬鹿にしない、誰の悪口も言わない今までの行動が、その気持ちのジレンマに拍車をかけた。
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