第31話 親友と過去

文字数 1,716文字

「久しぶり」
 玄関のドアが開くと同時にカンナはそう呟いた。少し気まずそうな表情を浮かべている來未は何も言わずカンナを家に招き入れる。
 久しぶりの來未の家は案外なんの代わり映えもない。來未の部屋に着くなりカンナは慣れたようにカーペットの上に敷かれたテーブルの前に座る。
「もう飲んでないの?」
「うん……最近は。まぁ、たまに呑むけど。つい最近しけなったし」
 ベットの上に座る來未はもう慣れたのか以前のような態度で穏やかに話始める。
「自信は?」
「まぁまぁかなー博人が勉強に付き合ってくれてたし」
「例の……そう、同じクラスなんだっけ」
「うん」
 少し力ない來未の言葉、
「噂はしってる……とばっちり食らったみたいね、例の博人はそれ知ってんの?」
「うん。クラスだと一応、唯一の友達……学校では関わってないけどね」
「……相手のためにもその方がいいでしょうね。……その感じ、あんたしてろ?」
 來未は言葉を詰まらせてから静かにうなずく。
「そ……じゃあ早苗とは」
「また告白した。そして、振られた」
「……そう。こっちもだめ……」
「二人は?」
「もねと志津」
「そう」
「順調」
「はぁ……」
「飲まない?」
「そーね」
 立ち上がった來未がお酒を持ってくる。二人で乾杯し飲んでいく。
 空気は寂しかったけど、二人はこの空気が案外嫌いではなかった。
「っていうか、カンナちゃん受験近いんちゃなかった?まだ終わってないんでしょ?大丈夫?」
「うん、騎士が付き合ってくれてるから」
「そっか、頭もいいし教えるの上手いもんね」
「そう。おかげで約束も果たせそう」
「なにそれ」
「騎士と約束したの、受験成功したらお願い事聞いてって」
「内容は?」
「……デート」
 たっぷりためてから恥ずかしそうに小さな声で言うカンナに來未は笑う。
「そっかよかったじゃん」
「あんたは大丈夫なの?」
「結果待ちがけど、正直分からない、ただ必死だったよ、幸いクラスで嫌われ者だったお陰で勉強沢山出来たし」
「なにそれ、そいつら受験のストレスを來未にぶつけてただけでしょ」
 カンナ野口に來未は笑って返す。
「そうだね。分かってたよ」
「で、場所は」
「もちろん、早苗と同じところ。ほんと大変だった、逆にこんだけやって駄目だったら後悔ないけどね、いや、まぁー少しはあるけど」
「図太い……だけど、あんたのそういうところ好き。私、あんたの事一番目くらいには付き合いやすいって思ってんのよ、自信持ちな」
「そうだったんだ……正直以外。でも、ありがとう……じゃあ、親友ってことでいいの?」
「うん」
「よかったー、カンナちゃんに会えて」
「……答えたくなかったら答えなくていいんだけど、騎士の過去のこと教えてくれる」
 驚きからか一瞬言葉に詰まっる來未。
「え……私から?カンナちゃんの性格なら本人から聞くでしょ」
「聞いた。そしたら、俺は別にいいけど來未のこともあるからって。きっと俺なんかよりもよっぽど気にしてるだろうって」
「……」
 來未その言葉に黙り込む。長い静寂が來未に覚悟を決めさせたのか話始めた。
「ほんと騎士は優しいね。いいよ、でも、これは騎士の言葉で直接聞いた方がいいと思う」
 そう言って來未はおもむろにスマホをいじりだし通話をかける。
 着信音が部屋に響き渡りすぐに病んだ。
「今から私の家来て……そして私とカンナちゃんに聞かせて。騎士の過去の事、その時の気持ち」
 するとすぐに通話が切れた。
「すぐに来ると思うよ」
 そう言う來未にカンナは少し焦りながら問いかける。
「そ、それよりもお酒」
「あ」

 暫くして騎士が來未の家に着く。
 綺麗に片づけられている來未の部屋に三つのコップとお水の入った大きめのボトルがテーブルの中心に置いてある。その下にひかれているカーペットの上に來未と騎士とカンナが向き合う様に座わった。
「私は大丈夫だから、本音を聞かせて欲しい。ずっとそこが引っかかってたから」
「……わかった」
 來未の言葉にいつもより真剣な眼差しで静かに返す騎士にカンナは唾を飲む。
 じっくりと思い出しているのか、暫く黙り込んでいた騎士は昔を懐かしむように話始めた。



 これは俺たち、騎士と早苗と來未が出会ったばかりの時の話。ちょうど小学生になるときの話だ。
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