第2話

文字数 2,012文字

「そっか」
 同じ声色で返す騎士に來未は顔を上げるとその趣旨を離してくれる。
「一応私たち三人は幼馴染だし騎士には伝えて置いた方がいいんじゃないかなって」
「まあそうだな、本人にはそんな簡単に伝えられないし、しかもそれ告白になるしな」
「うん」
「秘密にするのは良くないと思って今教えてくれたんだろ?なら、質問していいか」
 來未は無言でうなずいた。
「いつから好きになったんだ?」
「出会った時……」
「はああああ!」
 盛大に叫び声をあげて驚く騎士に來未は顔を背け両手を振りながら否定した。
「やめて、そんなに驚かないでよ……恥ずかしい」
「すまんすまん……でもだぞ、俺と來未があったのは幼稚園の時だが、早苗にあったのは小学生になったばかりの時だろ?目の前の家に引っ越してきて……その時か?」
「……」
 その問いに恥ずかしそうに黙って頷く來未。
「ってことは今の高二まで片思い中……。いち、にー……約十年間⁉」
「何度も諦めようと思ったの……」
「ならなんで今このタイミングなんだよ」
「ほら。高校生になって変に恋意識させられるようになるし……特に二年生になって。それに運命みたいに同じクラスになったし……」
 感心したようにうなずきながら騎士は答えた。
「ははーん、なるほどな。…………ってことはだ、お前この高校目指した本当の理由って……」
 その先の言葉の先を代わりに來未が答える。
「うん、早苗くん追いかけて……」
「ほんと一途だな、いいぞ手伝ってやる」
 椅子から立ち上がって言う騎士を見上げる來未は自然と上目遣いになっていた。
「いいの」
 いつもの様に歯を出し気持ちいいほどの笑顔を見せる騎士。
「ああ!それに俺に背中を押して欲しいからこえかけたんだろ?」
「う……うん」
「いいって!長い付き合いだろ?だからもし俺の番が来たらその時は手伝ってくれよ」
「……わかった」
 立ち上がってから答える來未の目の前に騎士の小指が伸ばされる。
きょとんとした顔で騎士の顔を見つめると騎士は笑う。
「恥ずかしいのか?指切りだぞ、昔も三人で約束しただろ。困った時は助け合おう!噓をつくのは無しだって」
 來未は黙ったまま同じように小指を伸ばす。
「指きった!」「指切った」
 帰りの支度を始めた騎士が片手間に声を上げ來未はスマホを片手間に言葉を返す。
「時間もちょうどいいし一緒に帰るか」
「うん、いいよ。あとコンビニよろ」



 僕が朝の教室に着くと先に学校にいる來未が話しかけてくる。
 來未のとの会話の内容は、昨日の奴の演奏の話だった。嫌いな奴の話だったが幼馴染として慣れ親しんでいるせいか、いつもと何も変わらない平凡な会話に終わる。その後、いつもの様に來未が上位カーストの女子グループに呼ばれその場を後にする。
 僕ら三人は昔は毎日のように一緒に遊び一緒に学校に登校していた。それも來未の家と奴の家は隣同士で並び、その正面に僕の家が建っていたから。運命のいたずらのように本当に僕たちの家は固まって立っていた。
 中学生になった時、朝早い來未が最初に学校に行き、朝の弱い奴は遅刻ぎみで学校に行っていた。だから僕はどっちに合わせる話へでもなく、間を取っては平均的な普通の時間に学校に行く。気が付いた時にはそれが自然な流れになっていた。
 そう、自から望んでそう行動したわけではない。中学の時、既に奴と來未がばらばらに登校するようになっていただけ。
 すると授業の開始を知らせるように奴が教室に入ってくる。それ合わせて次々の他の生徒も教室に戻り自分の席に着き始めた。
 昼休みに入り、学食のために食堂三向かう生徒や弁当や、はたまた購買へ行く生徒とがった返し、他の休み時間とは違いより一層騒がしくなる。
 ムードメーカーの騎士の所にはやはりたくさん人が集まり机をくっ付け一緒にお昼を食べる。
教室の真ん中に奴の席があるために、それを囲う様に大きな円が出来上がる。僕もそのグループに混ざり一緒にお昼を取っていた。
 奴の隣の席にいるがために、お昼も隣同士席をくっ付ける。クラスのムードメーカーである奴のグループに属さない方が普通ではない。
 この偽善者は誰構わず関係なく懐に入り込ぶ。そして、仲間外れにしないぜ精神か、何か知らないが相手の気も知らず関わってくる。
 そんな奴の隣の席にいる僕が、お昼を一緒にしないのは普通じゃない。しかも、クラスのほとんどの者が僕が奴とは昔からの付き合いであることを知らされている。
 だからこそ、普通であるために僕は大っ嫌いな奴と一緒にお昼を食べなければならない。
 奴の事さえ気にしなければ普通に楽しめるグループ会話を楽しんでいると突然、奴がきわどい話を持ち出してくる。
「好きな人いる?」
 一気に盛り上がり騒がしくなる教室で僕もその会話を楽しんでいた。しばらくして、落ち着きを取り戻し始めたころ奴がとんでもない言葉をこぼした。
「で?早苗はどうなんだ?」
 皆の注目が僕一点に集まり静まり返った。
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