第20話 修学旅行
文字数 3,324文字
あの日を最後に來未は早苗と別れることになった。
來未は本当は嫌だった、別れたくなかった。それでも付き合っていた時に思い出す記憶はつらいことばかりで、お互い苦しんでいた。一緒にいたからこそわかる、付き合ってきたからこそわかる、私たちの相性は悪い。
考えたくない、認めたくない。それでも來未が早苗と付き合って思い出す記憶はつらいものばかり……。
來未が学校に戻ってきても、早苗との距離が明らかに増えても噂話が広がるような事はなかった。触れてはいけない暗黙な領域、そんな空気になっている。來未が早苗と別れたことを知っているカンナちゃんたちが抑制してくれているのかもしれない。
騎士はあからさまに距離を取るわけではないが、今までよりも少し距離を置きスキンシップをしない。
それから数日が立った。
今日は修学旅行が近づいてきた來未のクラスは班決めをする。
最初に男子同士、女子同士の二人組のペアを作ることになった。
來未はカンナちゃんたち三人と相談して決めようと思っていたが、相談する前から概ね決まっていたみたいだった。
もねと志津が一緒に組んでいて、二人にカンナちゃんの事を頼まれる。
「まあ予想は出来てたけど、こうなったね」
「ああ」
カンナちゃんは軽く返事を返すだけだった。
次に男子の一組と女子の一組を合わせて一班とすると説明された。要するに男女に―に―で組めよってこと。
私たちが一緒にいる時はだいたいカンナちゃんの指示に従う。だから來未はカンナちゃんから支持を仰ぐ形で質問した。
「誰と組む?」
その言葉に返事はなく、代わりにずかずかと歩いて行く。流石上位カーストを束ねているリーダー的存在のカンナちゃん、周りの生徒がぞろぞろと道を開けていく。
來未もその隣を自然と歩く。カンナちゃんの隣にずっといたせいか、正直こういうのにはもう慣れている。
他の子みたいにカンナちゃんの行動に驚いたり戸惑ったりしない。
そう思っていると歩いていたカンナちゃんは一組の前で立ち止まる。その相手に來未は思わず目を見開いた。
カンナちゃんが自から進んで選びに行った相手は早苗の班だった。
「うちと組んで」
カンナちゃんは早苗に対いてド直球に言う。これに対して早苗がクラスのみんなから注目を浴びない方が無理だった。
事情を知っている來未は居ても立っても居られない。
「うん、僕で良ければいいですよ」
早苗の一切態度に出ることのないさわやかな返事に、一瞬來未は嘘を吹きこまれていたのではないかとすら思ってしまう。それぐらい自然で普通な返しだった。
「じゃあ、騎士書いといてくれる?」
「おー!まかせとけ」
大袈裟にグットマークをする騎士は皆の名前を書きに教卓の上へと上がる。早苗が騎士と組んでいたのにも少し驚いたけど、早苗の思う普通の行動は騎士と組む、というのには納得できた。何も知らない他の生徒は幼馴染である早苗と騎士は親友同士だと思っている。
この前のあんな喧嘩があった後でも仲よさそうにしている二人を見れば、誰しもがそう思うのは理解できた。
事情を知っている來未ですら、そう感じるほどだった。
それにしてもカンナちゃんはどうして早苗くんの所と組もうと思たんだろう。
自分の席に戻るカンナちゃんに來未は囁いた。
「どうして早苗と?少し気まずい……」
カンナちゃんたちは來未が早苗と話し合った上でしばらく距離を置くことを決めた、ということを知っているはずだった。
だからこそカンナちゃんが早苗くんと組もうとした理由が分からなかった。
「……」
カンナちゃんは何か言おうと口籠るが何も言葉を発しなかった。
言えないなら聞いても仕方がないと思った來未はそれ以上の言及を辞めて席に着く。
修学旅行を楽しみにしていたはずなのに、気がつけばその気持ちが亡くなっていた。早苗への気まずさとカンナちゃんへの疑問が來未の頭の中を奪っていく。
修学旅行当日。
いつもの様に学校に着く來未はキャリーバックを片手にバスがある駐車場へと向かう。そして、キャリーバックを運転手さんへと預けから、すぐ隣の集合場所に動して待機する。
暫くすると続々といろいろな生徒がやってきた。それでも普段より人は少ない。
「はよー」
「くみちー」
もねと志津がキャリーバックを引きずりながらやってくる。
「おはよー」
來未もそう手をひりながら返事を返した。荷物を預けてきた二人と合流すると、いつもならとっくに来ているはずのカンナちゃんがいないことに疑問を抱く。
「まだ来てない?」
「ねー」
もねと志津の言葉に來未も返す。
「私も何もきーてない」
「あー、直接行くとか?」
「そんなことある?」
もねの言葉に志津はいつもの様には賛同しなかった。
今回私達がいく修学旅行先は台湾。集合場所が二つ用意されていて、一つが学校でもう一つは空港。
事前にどちらか選ばないといけなくて、その時の來未は学校行を選んだ。確かカンナちゃんもみんな一緒で学校を選んだ記憶がある。
そろそろ時間が集合時間が迫っている所で、予想外のペアの登場に來未は息を詰まらせた。
「よー、おはよう!!」
修学旅行のせいかいつも以上に元気で豪快な騎士の登場。その隣を一緒に並んで登校してきていたのはカンナちゃんだった。
嬉しそうにしているもねと志津とは違い來未は呆気に捕らわれていて上手く反応できない。
そんな來未の元に二人は並んでやってくる。
「よっ!おはよう!」
「はよ」
温度差の凄い朝の挨拶に來未の返す挨拶はぎこちない。
「あ、おはよー……」
「早苗は空港集合だって」
「あ、そうなんだ」
「じゃー並ぶか」
その言葉を聞いて先に動いたカンナちゃんは無言で列に着く。その後に騎士が続き、我に返った來未は慌てて追いかける。
「ねぇ、騎士。カンナちゃんと一緒に来たの?」
「あ?ああ、たまたま家出た時に丁度出会ったからな」
小声で聞きだす來未同様、静かに返す騎士。
「え?家出た時にあったの?」
「ああ?そーだぞ?」
そう騎士が答えると先生から名挨拶が始まり、会話話言ったここで途絶えた。
カンナちゃんの家は全然違う方向のはずなのに何で?一緒に登校したかったから待ち伏せしていた、そんな理由しか考えられない。それだとカンナちゃんは騎士の事を好きということになるけど、今までそんなそぶり見せた事ないし、見た事もない。
どちらかと言うと合コンの時にいつも一緒にいた、あのイケメンの蓮がカンナちゃんの彼氏だと思っていた。二人でいるところは何度か見たことあるし、それに美人なカンナちゃんとイケメンな蓮が一緒にいる姿は良く映える。
先生の話が終わると、そのまま班ごとに一列に並びバスに乗り込んでいく。
その流れで、列の前にいたカンナちゃんとその後ろにいた騎士が隣同士で座る。
來未はカンナちゃんの後ろの座席に座ることになり、その隣に違う班の男子が座った。
おとなしそうな彼の名前は確か木下くん。メガネをかけて体が細い木下くんは來未に少し怯えている。
てっきりカンナちゃんの隣に座るとばかり思っていた來未はせっかくの修学旅行なのに……そう思わずにはいられなかった。
この隣の木下くんとは話できる気がしない。話したことないし、それに頑張って隠してるみたいだけ怯えてる。カンナちゃんがすぐ斜め前にるのも合わさって無理ないのかもしれない。わたしの方を向けばカンナちゃんの顔が見えるだろうし、まあ私も主な要因だけど。
幸い窓側の席のおかげで外をぼーっと見つめられる。
ほんとはこうなるはずじゃなかったのに……。高校二年生の秋に修学旅行があることは分かっていて、そのタイミングで奇跡のように早苗と同じくクラスになった。今までの私だとだめだから、変わりたかったから必死になって努力した、そして早苗と奇跡的に付き合えた。この日を楽しみにしていた。でも現実はこれ。
普通……か。窓に肘をかけクリームベージュの巻かれた髪の先をいじくりながら、暇さえあれば思わず考えてしまう。
私はいったいどこで間違えたんだろう、どうすればよかったんだろう。
どこにも吐き出せないこの気持ちがため息となってこぼれ、隣の席の木下くんが少し震えた気がした。
來未は本当は嫌だった、別れたくなかった。それでも付き合っていた時に思い出す記憶はつらいことばかりで、お互い苦しんでいた。一緒にいたからこそわかる、付き合ってきたからこそわかる、私たちの相性は悪い。
考えたくない、認めたくない。それでも來未が早苗と付き合って思い出す記憶はつらいものばかり……。
來未が学校に戻ってきても、早苗との距離が明らかに増えても噂話が広がるような事はなかった。触れてはいけない暗黙な領域、そんな空気になっている。來未が早苗と別れたことを知っているカンナちゃんたちが抑制してくれているのかもしれない。
騎士はあからさまに距離を取るわけではないが、今までよりも少し距離を置きスキンシップをしない。
それから数日が立った。
今日は修学旅行が近づいてきた來未のクラスは班決めをする。
最初に男子同士、女子同士の二人組のペアを作ることになった。
來未はカンナちゃんたち三人と相談して決めようと思っていたが、相談する前から概ね決まっていたみたいだった。
もねと志津が一緒に組んでいて、二人にカンナちゃんの事を頼まれる。
「まあ予想は出来てたけど、こうなったね」
「ああ」
カンナちゃんは軽く返事を返すだけだった。
次に男子の一組と女子の一組を合わせて一班とすると説明された。要するに男女に―に―で組めよってこと。
私たちが一緒にいる時はだいたいカンナちゃんの指示に従う。だから來未はカンナちゃんから支持を仰ぐ形で質問した。
「誰と組む?」
その言葉に返事はなく、代わりにずかずかと歩いて行く。流石上位カーストを束ねているリーダー的存在のカンナちゃん、周りの生徒がぞろぞろと道を開けていく。
來未もその隣を自然と歩く。カンナちゃんの隣にずっといたせいか、正直こういうのにはもう慣れている。
他の子みたいにカンナちゃんの行動に驚いたり戸惑ったりしない。
そう思っていると歩いていたカンナちゃんは一組の前で立ち止まる。その相手に來未は思わず目を見開いた。
カンナちゃんが自から進んで選びに行った相手は早苗の班だった。
「うちと組んで」
カンナちゃんは早苗に対いてド直球に言う。これに対して早苗がクラスのみんなから注目を浴びない方が無理だった。
事情を知っている來未は居ても立っても居られない。
「うん、僕で良ければいいですよ」
早苗の一切態度に出ることのないさわやかな返事に、一瞬來未は嘘を吹きこまれていたのではないかとすら思ってしまう。それぐらい自然で普通な返しだった。
「じゃあ、騎士書いといてくれる?」
「おー!まかせとけ」
大袈裟にグットマークをする騎士は皆の名前を書きに教卓の上へと上がる。早苗が騎士と組んでいたのにも少し驚いたけど、早苗の思う普通の行動は騎士と組む、というのには納得できた。何も知らない他の生徒は幼馴染である早苗と騎士は親友同士だと思っている。
この前のあんな喧嘩があった後でも仲よさそうにしている二人を見れば、誰しもがそう思うのは理解できた。
事情を知っている來未ですら、そう感じるほどだった。
それにしてもカンナちゃんはどうして早苗くんの所と組もうと思たんだろう。
自分の席に戻るカンナちゃんに來未は囁いた。
「どうして早苗と?少し気まずい……」
カンナちゃんたちは來未が早苗と話し合った上でしばらく距離を置くことを決めた、ということを知っているはずだった。
だからこそカンナちゃんが早苗くんと組もうとした理由が分からなかった。
「……」
カンナちゃんは何か言おうと口籠るが何も言葉を発しなかった。
言えないなら聞いても仕方がないと思った來未はそれ以上の言及を辞めて席に着く。
修学旅行を楽しみにしていたはずなのに、気がつけばその気持ちが亡くなっていた。早苗への気まずさとカンナちゃんへの疑問が來未の頭の中を奪っていく。
修学旅行当日。
いつもの様に学校に着く來未はキャリーバックを片手にバスがある駐車場へと向かう。そして、キャリーバックを運転手さんへと預けから、すぐ隣の集合場所に動して待機する。
暫くすると続々といろいろな生徒がやってきた。それでも普段より人は少ない。
「はよー」
「くみちー」
もねと志津がキャリーバックを引きずりながらやってくる。
「おはよー」
來未もそう手をひりながら返事を返した。荷物を預けてきた二人と合流すると、いつもならとっくに来ているはずのカンナちゃんがいないことに疑問を抱く。
「まだ来てない?」
「ねー」
もねと志津の言葉に來未も返す。
「私も何もきーてない」
「あー、直接行くとか?」
「そんなことある?」
もねの言葉に志津はいつもの様には賛同しなかった。
今回私達がいく修学旅行先は台湾。集合場所が二つ用意されていて、一つが学校でもう一つは空港。
事前にどちらか選ばないといけなくて、その時の來未は学校行を選んだ。確かカンナちゃんもみんな一緒で学校を選んだ記憶がある。
そろそろ時間が集合時間が迫っている所で、予想外のペアの登場に來未は息を詰まらせた。
「よー、おはよう!!」
修学旅行のせいかいつも以上に元気で豪快な騎士の登場。その隣を一緒に並んで登校してきていたのはカンナちゃんだった。
嬉しそうにしているもねと志津とは違い來未は呆気に捕らわれていて上手く反応できない。
そんな來未の元に二人は並んでやってくる。
「よっ!おはよう!」
「はよ」
温度差の凄い朝の挨拶に來未の返す挨拶はぎこちない。
「あ、おはよー……」
「早苗は空港集合だって」
「あ、そうなんだ」
「じゃー並ぶか」
その言葉を聞いて先に動いたカンナちゃんは無言で列に着く。その後に騎士が続き、我に返った來未は慌てて追いかける。
「ねぇ、騎士。カンナちゃんと一緒に来たの?」
「あ?ああ、たまたま家出た時に丁度出会ったからな」
小声で聞きだす來未同様、静かに返す騎士。
「え?家出た時にあったの?」
「ああ?そーだぞ?」
そう騎士が答えると先生から名挨拶が始まり、会話話言ったここで途絶えた。
カンナちゃんの家は全然違う方向のはずなのに何で?一緒に登校したかったから待ち伏せしていた、そんな理由しか考えられない。それだとカンナちゃんは騎士の事を好きということになるけど、今までそんなそぶり見せた事ないし、見た事もない。
どちらかと言うと合コンの時にいつも一緒にいた、あのイケメンの蓮がカンナちゃんの彼氏だと思っていた。二人でいるところは何度か見たことあるし、それに美人なカンナちゃんとイケメンな蓮が一緒にいる姿は良く映える。
先生の話が終わると、そのまま班ごとに一列に並びバスに乗り込んでいく。
その流れで、列の前にいたカンナちゃんとその後ろにいた騎士が隣同士で座る。
來未はカンナちゃんの後ろの座席に座ることになり、その隣に違う班の男子が座った。
おとなしそうな彼の名前は確か木下くん。メガネをかけて体が細い木下くんは來未に少し怯えている。
てっきりカンナちゃんの隣に座るとばかり思っていた來未はせっかくの修学旅行なのに……そう思わずにはいられなかった。
この隣の木下くんとは話できる気がしない。話したことないし、それに頑張って隠してるみたいだけ怯えてる。カンナちゃんがすぐ斜め前にるのも合わさって無理ないのかもしれない。わたしの方を向けばカンナちゃんの顔が見えるだろうし、まあ私も主な要因だけど。
幸い窓側の席のおかげで外をぼーっと見つめられる。
ほんとはこうなるはずじゃなかったのに……。高校二年生の秋に修学旅行があることは分かっていて、そのタイミングで奇跡のように早苗と同じくクラスになった。今までの私だとだめだから、変わりたかったから必死になって努力した、そして早苗と奇跡的に付き合えた。この日を楽しみにしていた。でも現実はこれ。
普通……か。窓に肘をかけクリームベージュの巻かれた髪の先をいじくりながら、暇さえあれば思わず考えてしまう。
私はいったいどこで間違えたんだろう、どうすればよかったんだろう。
どこにも吐き出せないこの気持ちがため息となってこぼれ、隣の席の木下くんが少し震えた気がした。