(二)

文字数 923文字

 全財産といっても、ン万円しかない。
 勿論、学校で使うお金ではない。それで文枝に奢ろうっていう訳でもない。私はどうしてもそれを使う必要があると思っていたのだ。
 私は下校して帰りの電車に乗ったのだが、自分の駅では降りずにそのまま乗り過ごした。そして、藤沢君の家のある駅まで座って行き、何日ぶりかにその駅で降りた。
 私は耀子さんに、一言、助けてくれたお礼が言いたかった。
 そういう訳で今日はまた、あのリストランテに行こうと思っている。別に耀子さんと約束をしている訳では無い。でも、何故かあそこに行けば、耀子さんが待っていてくれる気がしていた。
 もし待っていなかったら、恥ずかしいけれど藤沢君にSNSして、耀子さんに来て貰おうと思っている。呼び出すのは失礼だが、お礼をしない訳にはいかない。

 リストランテの入ると、耀子さんが待っていて私を見て手を振っている。
「久しぶり、元気していた?」
「耀子さん、先日は助けて頂き、ありがとうございました」
 私は席に着く前に、耀子さんに一礼をした。
「何のこと? 私、あなたなんか助けたりしないわよ」
「え、でも……」
「取りあえず、ケーキとコーヒー頼んでおいたから。もし何か食べたい物があるなら追加で頼んでね」
「耀子さんは、どうして私がここに来ることを分かっていたんです?」
「悪魔だからよ……」
「え?」
「冗談! あなたが駅を出るとこ見てたの。ここに来ると思ってね。先回りしていたのよ」
 正直、悪魔を信じそうになった。でも、私がここに来ると耀子さん、良く分かったと思う。だけど私だって、このまま帰る訳にはいかない。
「私を助けた覚えなんて、無いって言うんですか?」
「そうよ」
「だったら、それはそれで良いです。せめて、この前食事を御馳走になりましたよね。今度は私に奢らせて下さい」
 私は、この為に全財産を下ろしたのだ。そうでもしなければ気が収まらない。だが、耀子さんは立ち上がって、私に猛烈に食って掛かってきた。
「あんた、何様のつもり? 私に奢る? そもそも私と対等だとでも思ってんの? ふざけないでよ、まだ男も知らない小娘の癖に!」
 しかし……、この場面でマウントしてくるかぁ?
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