(二)

文字数 1,036文字

 余分な事まで口にして私が言い淀んでいると、彼は振り返り両手を前に出して遮った。
「いいよ、言いたくないなら」
 でも、私は決心した。何を隠しても無駄だ。どうせ知れるんだ。それを言って嫌われるんなら本望じゃないか! 隠し事して好きになって貰おうなんて、私は図々し過ぎたんだ。
「話すよ……。私が小学生の時、男の子数人が、寄って集っておとなしい女の子を虐めていたんだ。私はそんなのが許せなくて、彼らに食って掛かったんだ。そうしたら、奴ら、私の手を押さえて、私のスカートを臍が見えるまでまくり上げた。『スカート穿いた女が生意気言うな』ってことなんだと思う。そしてそれをスマホで写真に取った。私は悔しくて、悲しくて、泣いて学校から走って帰ったよ」
「いいよ、もういい」
「聞けよ! 訊いた以上最後まで聞けよ」
 藤沢君は私がそう言うと、下を向いて黙った。
「私はそれから学校に行かなくなった。一週間後、担任とその男子たちが私んちに謝りに来た。私が学校に来なくなったので、話が担任に伝わったらしい。担任は『こいつらも反省しているから許してやって学校に来い』って言うんだけど、事件にしたくないってのが見え見えだった。やつらだって口で謝りはしてたけど、反省していないのは明白だった。それでも私は次の日から学校に戻った」
 私はこれを思い出す度に、悔し涙が溢れそうになる。
「あいつら反省なんかしていない。それが証拠に例の写真を写メでみんなで持っていたんだ。私が中学になって、男の子と仲良く話したりすると、その男の子に画像を見せる。そしてこう言うんだ。『おまえ、パンツ丸出し女と付き合ってんかよぉ』ってな。そりゃ引くよな、付き合ってた訳じゃなくても、普通は」
 私は自分のスマホを出して、私の『パンツ丸出し』画像を藤沢君に見せた。勿論、顔まで写って、私だと云うことがはっきりと分かる。
「同情した奴が教えてくれた。これが拡散されているって。でも、だからって、どうしようもないよな。だから私もその画像を貰ったんだ。そいつが言うには同じような状況でパンツ降ろされた子もいる。あんたはましな方だって。でも、一緒だよ。これが知れたら、誰も私の相手なんかしてくれないんだからな」
 私はそこで少し自虐的な笑いを溢した。笑わずにはいられない。
「でも、高校になったら中学と違って県外の男の子も現れる。小学校の事も知らない、あいつ等とも付き合いのない男の子もいる。私でも恋が出来るんじゃないかってね」
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