(二)

文字数 938文字

 藤沢君って云うのは、私と同じ高校生で、私も良く知らないのだけど、たまに朝の通学で同じ電車に乗っていて、音楽も聴かず、勉強もせず、クールに立っているだけの男の子。一見すると、スケートの羽生君だっけ、彼みたいな雰囲気で、実は私の憧れの君。彼は、私の中学時代の友人の文枝と同じ学校に通っている。でも、もう恥ずかしくて顔も合わせられない。
 だから文枝に会っても、何も嬉しくない。彼のことなど今は聞きたくもない。でも、そんな時に限って、学校帰りに文枝と出くわすんだ。
 学校から自宅までは2路線の電車を使う。藤沢君とは私の自宅に近い方の路線で、彼は私より遠くの駅から乗ってくる。今、私は途中の乗り換え駅で、家の最寄り駅までの電車が来るのを待っていた。そこに文枝は現れた。もう、楽しそうに手を振って。こっちは滅茶苦茶落ち込んでいると云うのに。
「やっぱりいた。晶、ちょっといい?」
「勘弁してよ、私、今、誰とも話したくないんだから」
「へぇ、男前女子が珍しいじゃん!」
 そう、文枝が男前だなんて変な綽名をつけたんだ。もう、それだって腹が立つ。どうして私はこうもがさつなんだろう?
 文枝は私の脇に立って、私の言葉を全く気にせず楽しそうに話し始める。こいつだって、繊細さなんか無いよな。
「晶、来週の日曜日空いてる?」
「別に用事はないけどさ」
「あんた、前、『藤沢君って格好いい』とか言ってたよね」
 本当、こいつは場の読めない奴だ。こっちは彼のことで落ち込んでいるってのに。
「じゃ、来週の日曜日、晶、藤沢君とデートしてみない?」
「え?」
「今日さ、藤沢君があたしの所にやって来て『田村さん、前、君、日色さんて女の子のこと話したよね? あれ本当? 一度逢う事、出来るかな』って言うんだよ」
「文枝、あんた何を彼に話した?」
「え? 『日色っていう、藤沢君に憧れてる女の子がいるよ』ってことさ、その時は藤沢君、私のこと全然相手にしてくれなくて、不愉快そうにしてたけどね」
 この馬鹿は何てこと話すんだ!
 もう恥ずかしくて、私は顔を隠してその場にしゃがみ込みそうになった。
「でさ、『晶も喜ぶよ、今度の日曜日、用事が無いか聞いてみるわ』って、それであんたを待ち伏せていたって訳!」
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