(二)
文字数 1,022文字
「どうもありがとう。君、高校生? 今度、お礼に小父さんが食事でもご馳走するよ。だから、連絡先でも、教えてくれないかい?」
「遠慮しておきます!」
痴漢に間違われたオヤジから誘われた。何かすごくやらしい目付きだ。こいつ、本当に痴漢だったんじゃないか? あのまま男子が手を押さえて無ければ、こいつ本当に女子の尻を触ってたんじゃないのか?
私は逃げるように、別の車両に移動した。
「私は調子に乗って、また余分なことをしたのだろうか?」
心の中で声がする。耀子さんの声だ。
「そうよね、確かにあの二人は痴漢をでっち上げようとしてたわよね。でも、あのオヤジは本物の痴漢で、友達が泣き寝入りしたのを見かねて、二人で復讐しようとしたのかも知れないわね。それなら、あなた、彼らの行為、それは正しくないかも知れないけど、友達の為にしようとしたことを邪魔しちゃったことになるわよね」
私は辺りを見回した。それなりの乗車数なので間違いないとは言い切れないが、耀子さんはどこにも見当たらなかった。
それは私自身の心の中にある、私の声だったのだろう。
ある意味、理性、別の意味で大人の狡さ。
大人になっていくに従って、言葉巧みに行動しない理由をつけていく。少し皮肉交じりに、そして見下した視線で。私はそうやって大人になっていくのだ。
おとぎ話に出てくるヒーローやヒロインの行動に胸躍らせて、自分もそうすべきと考えていた子供時代。その行為は必ず報われると信じていた少年少女期。
だけど、それはほとんどの場合報われない。自分が報われないどころか、その行為が相手にも悪い結果をもたらす。そんな場面すらよくある。それが現実。
だからと云って、正しいと思ったことをしないのは、やはり逃げているのでは無いだろうか? そう思うのも子供の考えなのか?
私の中に生まれた皮肉屋で冷めた大人は、耀子さんの姿をしていて、彼女の声を使って私に語りかけてくる。常識知らずで無知な子供の私を諭すように。
昔の『男前女子』などと云われて喜んでいた私はもういない。何かが必ずブレーキを掛けるようになってしまっている。それは耀子さんに会ってしまったことが原因か、それとも、考えたくはないけど……、修一、いや藤沢君と出逢ったことで、私は自分自身を変えてしまっていたのか……。
私は数日、そんなことで悩んでいた。だから、駅で彼らが待ち伏せしていたことに少しも気付くことがなかった。
「遠慮しておきます!」
痴漢に間違われたオヤジから誘われた。何かすごくやらしい目付きだ。こいつ、本当に痴漢だったんじゃないか? あのまま男子が手を押さえて無ければ、こいつ本当に女子の尻を触ってたんじゃないのか?
私は逃げるように、別の車両に移動した。
「私は調子に乗って、また余分なことをしたのだろうか?」
心の中で声がする。耀子さんの声だ。
「そうよね、確かにあの二人は痴漢をでっち上げようとしてたわよね。でも、あのオヤジは本物の痴漢で、友達が泣き寝入りしたのを見かねて、二人で復讐しようとしたのかも知れないわね。それなら、あなた、彼らの行為、それは正しくないかも知れないけど、友達の為にしようとしたことを邪魔しちゃったことになるわよね」
私は辺りを見回した。それなりの乗車数なので間違いないとは言い切れないが、耀子さんはどこにも見当たらなかった。
それは私自身の心の中にある、私の声だったのだろう。
ある意味、理性、別の意味で大人の狡さ。
大人になっていくに従って、言葉巧みに行動しない理由をつけていく。少し皮肉交じりに、そして見下した視線で。私はそうやって大人になっていくのだ。
おとぎ話に出てくるヒーローやヒロインの行動に胸躍らせて、自分もそうすべきと考えていた子供時代。その行為は必ず報われると信じていた少年少女期。
だけど、それはほとんどの場合報われない。自分が報われないどころか、その行為が相手にも悪い結果をもたらす。そんな場面すらよくある。それが現実。
だからと云って、正しいと思ったことをしないのは、やはり逃げているのでは無いだろうか? そう思うのも子供の考えなのか?
私の中に生まれた皮肉屋で冷めた大人は、耀子さんの姿をしていて、彼女の声を使って私に語りかけてくる。常識知らずで無知な子供の私を諭すように。
昔の『男前女子』などと云われて喜んでいた私はもういない。何かが必ずブレーキを掛けるようになってしまっている。それは耀子さんに会ってしまったことが原因か、それとも、考えたくはないけど……、修一、いや藤沢君と出逢ったことで、私は自分自身を変えてしまっていたのか……。
私は数日、そんなことで悩んでいた。だから、駅で彼らが待ち伏せしていたことに少しも気付くことがなかった。