(一)

文字数 908文字

 私は追いかけた。追いつくはずないけど追いかけた。見失っても探しまくった。グルグルと探し回った。そして、いつしか陽も落ちて空は青灰色に変わっている。やがて夜になって辺りは暗くなっていくのだろう。
 歩道橋を渡ろうとして、私は途中で立ち止まった。もう、いくら探しても、絶対に見つかるはずがない。私の目からは、また涙がこぼれそうになる。

 何が「男前女子」だ! こんなに女々しい奴だなんて自分でも思わなかった。
 いいや、知っていた。これが私の正体だ。弱虫で、泣き虫な本当の私だ。あの日から、男の子の様な言葉遣いにして、男の子の様にがさつな態度を取って、「私は男に興味無いし、私より弱い男に頼ろうなんて考えてないから、何も気にしていない」って、そんな風に、周囲も、自分も偽っていた。
 歩道橋から下を覗くと、暗い二車線の車道が見える。車はたまにしか通らない。右側は白い灯り、左側は赤い灯り。
 反対側はどうなのだろう?
 私は後ろを振り向く、やはり右車線は白く、左車線は赤い。どっちも同じ。当たり前だ。日本は左側通行。右車線は対向車のヘッドライト、左車線は赤いテールランプだ。前を向いても、後ろを向いても、それが変わる訳も無い。
 思えばいつもこうだった。一所懸命走るのだけど、結局いつも追いつけない。
 私は男の子と付き合うどころか、この先何をやっても駄目なのじゃないのだろうか? 上手くいくかなと思うと、誰かが、あるいは何かが邪魔をする。それは、誰とか、何かではなく、私の生まれた時からの、運命という奴なんじゃないだろうか?
 ここから落ちたら死ねるだろうか? 高さはせいぜい大人三人分くらい、足を挫くのが関の山。頭から落ちれば死ねるかも知れない。でも、頭蓋骨が割れたら痛いだろうな。それなら、ダンプが来る直前に飛び降りて、轢かれて死んだ方が楽かもしれない。
「そうよね、死んだらあなた、悲劇のヒロイン。あなたを虐めた意地悪な悪党どもは、世間からバッシングされる。いい気味だわ」
 私は声のする方向に目を向けた。そこには片足を少し前に、腕を組んでポーズをとっている三十前くらいの女性がとりすました表情で立っていた。
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