(二)

文字数 971文字

 私は修一を追わなかった。もう何度も追っている。修一がそうなると、私は彼に追いつくことが出来ない。仮に追いついたとしても、何も言わず、私を振り払うだけだろう。
 それより、何が起こったのだ? 私は大体の予想は付いている。だけど、それでも家に戻って、両親に確認せずにはいられなかった。
「何があったんだ?」
「おい、晶! あんな奴と二度と会うんじゃねえぞ! 塩撒いとけ! 塩!」
 親父のその馬鹿声を、気の遠くなる想いで私は聞いていた。

 後でお袋が何が起こったかを教えてくれた。
 私が菓子を買いに行っている間、お袋は修一を炬燵に招き、親父も仕事を休んで三人で話を始めたのだそうだ。
 お袋が先ずこう言ったらしい。
「すみませんねぇ。おたく、学級委員長さんか何か? 何か娘が無茶なお願いしちゃったんでしょう? 彼氏のふりをしてくれとか?」
 しかし、いきなり疑うか? そんな風に?
「いえ、本当に」
「いいのよ。娘には黙っているからさ。あんたみたいな二枚目が、家の娘みたいのと付き合う訳ないものね」
「お言葉ですが、俺……、いや僕は晶さんと本気で付き合おうと思ってるんです」
「あんた、本気かい? 信じられないわぁ」
「どうしてですか? ちゃんと付き合って、彼女には言ってませんけど、行く行くは結婚も考えてみたいと思っているんです。だから少し早いけど晶さんの実家に行ってご挨拶してもいいかなと……」
「そんな嘘まで、言わなくてもいいだろう?」
 親父がそれを口にする。その途端、彼の表情が一変したそうだ。修一はムキになって反論したらしい。
「どうして嘘なんです?」
「だって、お前、あの……、あいつは……」
「パンツ丸出し女だからって言いたいんですか?」
 修一も大分興奮していたらしい。こんな言わなくても良い事まで言ったそうだ。
「何だ? そこまで知ってて付き合おうってのか?」
「勿論です。そんなのも含めて全部好きになったんですから」
「お前、おかしいんじゃねえか? 分かったぞ、お前、結婚詐欺か何かだろう? どうも嘘っぽい顔していると思ったんだ」
「何ですか? 僕の顔が嘘ばっかり吐いている顔だと言いたいんですか?」
「違うって云うのかい?」
 これで彼は炬燵のテーブルを大きく叩いて立ち上がり、怒って飛び出して行ったと云う事らしい。
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