(二)

文字数 1,025文字

 私の出鼻は初っ端から挫かれた。
 私だって一時間前に来ていたんだ。もし私が妙な見栄なんか張らずに一時間前からここで待っていたら、私たちは一時間も早く逢えていたし、彼もこんな暑い中、一時間もここで待っている必要なんか無かった。愚かな私が馬鹿みたいに恰好つけたから、彼は一時間も無駄にここで待っていたんだ。
「行こうか?」
「え、あ、うん」
 私はもう自分の見栄っ張りが情けなく恥ずかしかった。自然と下を向いてしまうし、足取りもずっしりと重くなる。
 そう、何時も私が色々な事に出しゃばるのも、良い人だと思われたいという見栄にしか過ぎないのかも知れない。私はどうしようもない見栄っ張りなのだ。それで自分も傷ついたかも知れないけど、きっと相手はもっと傷ついているに違いないのだ。
「どうしたの?」
 私は何時の間にか、彼よりずっと後ろを歩いていた。自分の見栄っぱりについて考えていた為、ずっと上の空だったのだ。そう言えば彼が遊園地のチケットを奢ってくれたのにもちゃんとお礼も言っていないし、今も彼から離れるように歩いている。
「何でもない」
「そう」
 彼との会話はそれだけで終わった。彼は殆ど私に話しかけてこない。それもずっと不機嫌そうな表情だ。私が見栄を張って一時間も待たせたのが、よっぽど腹に据えかねているのだろう。そう思うと、私のテンションはどんどん下がっていく。

 遊園地は入園料を先ず取って、乗り物にもお金が掛かる。当初のシナリオでは高額の入園料はそれぞれが負担して、個別のアトラクションについては彼のプライドもあると思うので、節約しながら彼に奢って貰おうと思っていた。でも、その目論見は早々に崩れている。これ以上彼に負担を掛けさせる訳にはいかない。かと言って、私が奢ると云うのも何か嫌らしい気がする。
「ねえ、日色さん、あのアトラクションに乗らない?」
「結構並んでるでしょう? 私、待つのいやだわ」
 別のアトラクションでも私はお金の事を言わない様に断った。
「こっちのお化け屋敷みたいなやつはどう?」
「私、こういうの苦手なの」
 食事だって、遊園地内は結構高い。
「日色さん、一緒に何か食べない?」
「私、それ程お腹空いていないの」
 その後の事、私が下を向いて歩いていたら何かにぶつかった。藤沢君の身体だった。彼は私が歩いてくるのをそこに立ち止まって待っていたのだ。
「あんまり楽しそうじゃないね」
 彼はぼそりとそう呟いていた。
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