(一)

文字数 1,072文字

 その翌日、私はどうしても修一に会う必要があり、SNSで連絡し、ホームで待っている様に彼に指示していた。私も急いで学校を出る。その甲斐あって、乗換え駅で彼は見つかった。彼も気付いたようで、目を細め私を睨みつける。
 喧嘩でも売るように、ホームで待っている修一に、私はこちらに来るように目くばせをした。修一は相変わらず不機嫌そうに、笑い一つ溢さず、無表情にこちらにやってくる。彼が近づくと、私は顎で「あっちだ」と指示を出す。
 何故こんな態度を取っているかと言うと、耀子さんの助言によるものなのだ。私が耀子さんへにお礼のSNSを出したら、直ぐに彼女からこんなレスが帰ってきた。
「あんたたちみたい経験の乏しい子は、つい燥いで、所構わずいちゃつくんだけど、周りから見ると見っともないからね。電車の中とか、公共の場所では、べたべたすんじゃないわよ」
 確かに、そういうのは自分から見ても恥ずかしいし、私だって中坊の頃の知り合いに揶揄われたくはない。その点は修一も同じで、いまさら電車の中で女の子と笑いながらお喋りなんて、笑わない男のプライドが許さないのだ。そういう訳で、学校の行き帰りでは、お互い知らない間柄のふりをすることで合意が取れている。
 ま、耀子さんのレスには余分な助言も付いていたが……。
「だいたい若い時の恋なんて成就しないんだから、別れた時のことも考えなさい。裸の写真とか送っちゃ絶対駄目よ。それから、男なんて直ぐ要求するけど、許しちゃ駄目だからね。許すと『自分は持てるんだ』とか勘違いして、『ほかの女の子はどうだろう』なんて比べようとするからね」
 そうかも知れないけど、そこまで言われたくない。正直、大きなお世話だ。

 人気の無いコインロッカーの陰にきて、修一はやっと私に声を掛けた。
「どうしたのさ?」
「ごめん。悪いんだけど、日曜日、行けなくなった」
「なんでだよ!」
 そりゃ、修一だって怒るよな。折角のやり直しデートなんだ。何時もと違って本気で不機嫌そうな表情になっている。
 それもこれも親が悪い。これは耀子さんではなくて、うちの親の方。
「日曜日、親父が勝手に被災地のボランティアの話受けちゃったんだよ。私もボランティア活動は嫌いじゃないんだけど……」
「えー、うん、まぁ、それじゃ仕方ないな、残念だけど。その次の日曜は絶対な!」
「それともう一つ、修一にお願いがあるんだ……。土曜日、家に遊びに来てくれないか? 親が会いたいって言うんだよ。私に彼氏がいるのが信じられないって……。ごめん、嫌ならいいよ」
「はぁ?」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み