(一)

文字数 1,055文字

 翌日の月曜日の朝、私はいつもの電車、いつもの車両に乗り込んだ。恥ずかしいので決してキョロキョロはしていない。それでも、彼がいないことは100%確かめてる。
 間違いなく、私は藤沢君がいないのを知ってほっとしていた。彼には会いたくないと思っていた。でも、正直なところ私は彼に会いたくなかったと、ハッキリとは言い切ることが出来ない。もし本当に会いたくないのなら、私は乗る電車を変えるべきではないかと思う。でも、彼がこの車両に乗っていなくて、安心している私がいたのも紛れもない事実だ。
 恐らく藤沢君の方が私を避けて一本前か一本後の電車にしたのだろう。彼が避けているのであれば、逆に私はこの電車に乗り続けるべきだ。藤沢君の方が私の顔など見たくないのだから。

 その日、私は一日中、上の空で授業をこなした。そして上の空で一本目の帰りの電車に乗り、二本目の電車を乗る為、上の空で乗換駅のホームに並んでいた。
 私にはもう一人会いたくない奴がいる。でもこいつとは乗換ホームで顔を合わせた。恐らく、私が来るのを待っていたに違いない。
「晶、おまえ、藤沢に何やったんだ?」
「うっさいなー!」
 文枝である。どうせ私がふられた顛末でも聞きに来たに違いない。いや、そんな風に思うこと自体、私は友人すら悪意でしか見られない嫌な女になっている。そんな奴、人に好かれる訳がない。
「『どうだった?』って聞いたら、藤沢の奴『俺が相手だからって、人の心を弄ぶのもいい加減にしろよな!』って言ったきり、話もしてくれないんだ。それどころか目も合わせてくれなかったぞ。」
 文枝にしてみれば私を紹介した手前もあるのだろう。私は恐らく彼女に昨日の事を説明する義務がある。
「ごめん……、折角、彼とのデートをセッティングをしてくれたのに……、藤沢君、怒って一人で帰っちゃったよ」
 私は昨晩あれだけ泣いたのに、また涙が湧き出してきた。
「ああ、晶。もんじゃ焼き奢ってやるから、付き合えよ。降りようぜ、ここで」
 私は文枝に誘われて、その乗換駅で降りた。そして行きつけって程ではないが、たまに訪れるお好み焼き屋に二人で入った。分かるだろうけど、別に何かを食べたかった訳じゃない。
 私は藤沢君と会うことは恐らくもう二度と無い。だから悲しい思い出として心の奥にしまってしまえばそれで良かった。でも、文枝はこれから卒業するまでの間、毎日毎日、藤沢君と顔を合わせる度に気まずくなるに違いない。文枝はそんな高校生活を続けなければならないんだ。私のせいで。
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