(二)

文字数 971文字

 私は確信していた。人は誤魔化しや嘘を言うと、どうしても良心の呵責からか顔の筋肉の痙攣などを惹き起こす。それによって口元が捻じれたり、片目が閉じられたりする変化が現れる。
 こいつらは嘘を吐いていない。本当に困っているんだ。それを見捨てることなど、私には出来ない。
 そうは言っても、組織犯罪を起こすような相手だ。私が行って、どうにかなるものではない。そんな誰が考えても分かる様なことが、その時の私には分からなかった。浅はかにもハッタリだけで何とかなると考えていた。

 私はこの二人に案内され、繁華街の裏通りにある怪しげな雑居ビルに入って行った。ここら辺は、もう少し晩くなって、ネオンが灯る様な時刻になったら、とてもじゃないが女の子が一人歩き出来るような場所ではない。
 二階の無人受付のインタフォンで、例の二人の名前を言って、彼らについて、ここの責任者に会いたい旨を取次ぎに伝えた。相手も「畏まりました。暫くお待ちください」と無難なレスポンスを返す。
 一分か二分後、中年の女性社員が受付に現れ、私と高校生カップルの三人を応接室へと案内してくれた。
 
 私たち三人が勧められたソファに座っていると、ここの責任者だろうか? 恰幅の良い少し派手な身なりのサングラスの男が現れ、テーブルの反対側へと腰掛けた。
「お待たせいたしました。私がこの芸能プロダクションの社長をしております、片山と申すものです。さて、お嬢さん、何かお話があるとのことですが、どの様なご用件でしょうか?」
 私は正直喧嘩をする気はない。出来れば、この女の撮られたビデオを回収、あるいは破棄させ、今後この二人に手を出さないと約束させれば良いと考えていた。だから、正義の味方ぶって、この怪しい男を糾弾するつもりなど、さらさら無かった。
「お忙しいところお時間を頂き、誠にありがとうございます。早速なのですが、ここの二人につきまして、ここでのお仕事を頂いていたとのことですが、生憎都合がつかなくなり、退社させていただきたいとのことなのです」
「ほう、これはこれは。いやぁ残念ですなぁ」
「つきましては、お世話になってばかりで恐縮ですが、御社にお預けしてある、この二人の個人情報など、ご返却頂けないかとお願いに上がった次第で……」
「つまり、こいつらのフィルムを只でよこせと?」
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