(三)

文字数 1,062文字

 私はこれも言い切ってスッキリした。いいさ、これで。
「やっぱり全部ぶちまけるに限るな。そういう訳で、私は藤沢君に自分が『パンツ丸出し女』だってのを黙って付き合って貰おうとしてたんだ。悪かったよ。でも良い夢を見た。クールでハンサムな藤沢君と、あんな形でも一日デートが出来たんだ。ありがとうな。でも、もういいや、私はもう藤沢君につき纏わないよ」
 私の話は終わった。でも藤沢君はもじもじして帰ろうとしない。
「もういいぞ、帰っても」
「俺も話すよ。俺も……、日色さんに多分、黙っていたことがある。田村の奴が話していなければ……」
 文枝は「藤沢君には問題がある」って言っていた。だけど、あいつは人の悪口を陰で言ったりはしない。本人の前では必要以上に話すが。
「日色さんは俺をクールだって言うけど、好きでそうしてるんじゃない。俺は友達がいないんだ。誰も俺を信じないし、俺も別に群れたくもない。だって、俺は悪魔の子なんだ」
「悪魔の子?」
「そう、そう云って嘘を吐く嘘つき狼少年。自分は人間なんで何も能力が無いけど、母や叔父や従妹なんかは凄い力があるって」
「でも、誰だってそんな事言うだろう?」
「一回くらいなら笑い話さ。でも何回も真剣に話すと誰もが信用する。『藤沢君は本当に悪魔の子で、お母さんは凄い悪魔なんだ』って。で、じゃ見せて見ろってことになる。で、俺が家に連れて行くと、母が『修ちゃん、駄目よ、お友達に嘘なんか吐いちゃ。誰からも信用されなくなるわよ』って言うんだ。みんな引くよ。折角信じた友達の云うことが全部嘘なんだ。だから『もう修一の云うことなんか信用しない』ってことになる。当然だよな。だから俺はいつも一人。誰からも相手にされない。もう、そうなると群れるのも面倒になる。そして感情を現さなくなる。いつしか付いたあだ名が『笑わない男』さ」
 藤沢君はそういって、『笑わない男』の苦笑いを見せた。
 私はずっと彼の表情を読んでいた。彼は『悪魔の子』の所で、本当の事を言っている。恐らく彼にとって『悪魔の子』の方が真実なのだろう。
 人の真実は人によって違う。目に見える物、感じる物、錯覚も含め、真実は人によって違う。彼の頭の中では、彼の母は凄い力を持った悪魔なのだ。
「藤沢君、提案なんだけど、あなたの嘘、全部私が信じる。私には嘘を言い続けて構わない。その代わり『パンツ丸出し女』の私と付き合って。いいえ、付き合ってくれなくてもいい、せめて友達になって欲しい。あなたとなら、ありのままの自分でいることが出来る気がする」
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