(二)

文字数 926文字

「私は飛び降り自殺なんか、する心算はありません!」
「あら、そう? 深刻そうな顔していたから自殺でもするのかと思った。残念だわ、見物しようと思っていたのに」
 私は自殺する心算などない。でも考えなかったかと云うと……、それは嘘だ。でも彼女、本気で私の自殺を見物する心算だったのだろうか?
 私は前に本で読んで、簡単な読心術を身に着けている。嘘をついている人は唇をゆがめたり、片目を細めたり、声のトーンが変化する。この人は…………、
 本気で私の自殺を見物する心算だったんだ!
「私ね、あなた以上に人の心が読めるのよ。そうしたいと思えばだけどね。どう? 私と何か食べに行かない? 奢るわよ」
「どうして、あなたと食事しなくちゃいけないんです!」
「だって、面白そうなんだもん。あなた、私のお酒のつまみに丁度いいわ」

 私は結局彼女について行くことにした。怪しい女性であることは間違いないのだが、多少私も自暴自棄になっていたし、彼女には何か人を惹きつける魅力がある。それに、以前文枝に全てを話し時、私は気分が少し軽くなった。今度も彼女に話をすれば、自分自身心の整理がつくんじゃないかと思った。

 彼女が私を連れて行ったのは、歩道橋から左程遠くない普通のリストランテ。彼女は、白いチーズとトマトを交互に挟んだ前菜に、ペンネの漁師風、メインにミラノ風仔牛のカツレツを頼んだ。私は多少遠慮して、マルゲリータピザを頼む。彼女はワインを頼んだが、私は残念ながら付き合う訳にはいかない。炭酸入りの水で我慢することにした。
 彼女は黙々と目の前の御馳走を片付けて行く。それにしても凄い食欲! 私も付き合う形でピザを口に運ぶ。暫くすると、飲み物を残して料理は全て片付いていた。

 食事をしたせいか、私も少し落ち着きを取り戻すことが出来たようだ。
「は~い、乾杯」
 私と彼女は杯を合わせた。
「私は……、そうね、耀子と呼んで頂戴。あなたは?」
「日色晶です」
「あきらちゃんか、で、どうしたの? かなり深刻な顔していたけど」
 私はデートからこれまでの経緯を彼女に話した。耀子さんは本当に私の話を酒の肴にしているようで、楽しそうに聞きながら追加のワインを飲んでいる。
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