(二)

文字数 1,070文字

 私は既視感(デジャブ)という言葉を思い出していた。
 そう、こんなシーン、どこかで味わった様な気がしてしようがない。そして、良く考えてみると、既視感でも何でもない。ほとんど同じ思いを、私は小学生の時に味わっていたのだ。そう、例のパンツ丸出し事件。
 あの時も今と何も変わっていない。出しゃばらなくても良い場面に、調子に乗って出しゃばって、もの凄く辛い思いをしたんだ。そして、それが何年も何年も重しになって、自分の心を蝕んでいたんだ。それで、もう、お節介は二度としない。そう心に誓ったんだ。
 なんで、あの時、痴漢じゃないなんて声を上げたんだろう。私には関係ないじゃんか。なんで、似非高校生カップルを助けようなんて思ったんだろう。そんなの、こいつらの自業自得じゃないか。そんなもの、私は見て見ぬふりしてれば、良かったんじゃないか。
 見て見ぬふりをしちゃいけないなんて、おとぎ話じゃないか。正義ぶって良いことなんてどこにも無いんだ。そんなの子供の自己満足なんだ。大人はそれを醒めた目で見てあざ笑ってるんだ。
 なんで、いつも私はこうなんだろう?
 あるいは、男前で通すんなら、どうして女々しく落ち込むのだろう? そんなの気にせず、こいつらに、ほんの少しでも痛い目を見せてやればいいじゃないか! それで、どんなことされたって、正しいと思ったことしてるんだ。それでいいじゃんか! 恥ずかしいことなんか、あるもんか!
 でも……、そんなこと言っても、最後には、死にたくなるほど塞ぐのは分かってるけど。
 男はいいよなぁ。
 女に犯される何てこと、まずないしな。
 でも、私が男だったら、女の子を寄って集って危害を加えるなんてしないぞ。そんな、か弱い女の子は男の自分が守ってやるんだ……。
 あれ、か弱くない女の子は、守らなくていいのか? そうか! これじゃ、私は守られないな。か弱そうじゃ無いものな。
 私は両手を押さえられながら、ボーっとそんなこと考えながら、こいつらが撮影の準備とやらで、機材やら何やらを動かしているのを眺めていた。
「おい、お前ら。このお嬢さんには、学生服を身に着けたままで始めて貰わなきゃいけないが、お前らの脱ぐところなんざ、誰も見たいなんて思っていねえんだ。そろそろ撮影だ! パンツ一丁になって待っていやがれ!」
 例の社長が、男優と云うのだろうか、社員の男に命令する。私の相手は三人の男らしい。急いでズボンを脱いで、怪しげなアロハみたいな模様のブリーフ一枚の姿に変わっていく。私もそろそろ覚悟しなければならない様だ。
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