(一)

文字数 1,045文字

 私は日曜日、その有名な遊園地の手前の駅のホームで時が経つのを待っていた。何でそんなところで待っていたかというと、私はやっぱり待ち合わせは女の子が後からやって来て「待った?」なんて言って現れるものだと思っていたからだ。
 でも、遅れちゃいけないと思っていた私は、早く家を出過ぎて、待ち合わせより一時間も早く着きそうになった。だから一駅前のホームで時間調整をしていたのだ。
 だけど、電車の中から彼に私を見つけられるたら恥ずかしい。だから私は電車が通る度、陰に隠れて時を過ごした。自分でも滑稽だと思う。
 滑稽と云えば私の恰好も滑稽だ。白いブラウスに赤いタータンチェックのスカート、それに合わせた帽子と女の子っぽいピンクのスニーカー。何日も前から何を着ようかと色々試して、何回も堂々巡りした挙句、結局この恰好にしたのだ。それもこれも私の持っている靴が少ないのが原因だ。私は男物のスニーカーとゴム長、あとは通学用の革靴しか持っていない。これに合わせるとどうしてもいつものTシャツにGパンの姿になってしまう。だから私はこの日の為にスニーカーを新調した。
 でも、私は今日、この恰好を誰にも見られたくなかった。父母は勿論、近所の誰にも見られたくなかった。私がこんな格好をしていたら、絶対みんな笑うに決まっている。
 やっと時刻に合わせて到着できる電車に乗って、私は待ち合わせしていた場所に着いた。電車に乗っている間、彼が来ないんじゃないか? 彼がいないんじゃないか? そんな事ばかり考えていた。もしかしたら、友達と思っていた文枝に騙されているんじゃないか? そんな失礼な事まで考えていた。でも彼はいた。本当に文枝には疑って申し訳ないと思っている。
 私は予定通り待ち合わせの五分後に着いた。ここで私のシナリオでは、明るく手を振って「待った?」と私が駆け寄ると、彼がニッコリと笑って「いいや、それ程でも」って答える筈だったのだ。
 彼は駅の構内の柱に寄り掛かり、不機嫌そうに下を向いていた。どう見てもデートの待ち合わせをする雰囲気ではない。もしかすると、相当待たせてしまったのだろうか?
「あのー」
 私は予定外の台詞で彼に声を掛けた。予知と云うのだろうか? 私はこの時ひどく嫌な予感が身体中を駆け回っている。
「あ、遅かったね。僕は藤沢修一」
「私は日色晶です。待たせちゃいました?」
 私は彼の顔を伺う様に、おずおずとそう尋ねる。それに対し彼は無表情にこう答えていた。
「一時間も前に来ちまった」
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