(二)

文字数 1,046文字

 そりゃ、修一だって引くよな。だって私ら、実質的にはまだ付き合っていないんだ。それを彼女の親に挨拶なんて、絶対嫌だよなー。私だって修一のご両親にご挨拶とかだったら、絶対やだもん。私は偶然、耀子さんに会っちゃったけど。
「何なんだよ? 突然」
「女の意地なんだ……」
 そう、意地。はっきり言って何の役にも立たない単なる見栄。
「修一、ごめん。いいや、忘れてくれ。気にしないでくれ」
「取りあえず言ってみろよ、理由」
 そう、あれは昨日、私が少し浮かれて帰って来た夜のことだ。

 耀子さんにご馳走になったんで、腹ごなしに漫画でも読もうと二階の部屋に上がろとした時だ、親父が「おい晶、日曜日空いてんだろ? なんか被災地の片づけのボランティア募集してたから、お前のことを応募しておいてやったぜ」なんて言うんだ。
「何勝手に決めてんだよ! 日曜日は用事があんだよ」
「何の用事だ? 大体お前『ボランティアやりたいけど、いつも募集に間に合わねえ』なんて抜かしてやがったじゃねえか!」
「本当に大事な用事なんだよ。遊園地行くんだ!」
「何? 大事な用事が遊園地だぁ? 先週も行ったじゃねえか」
「だから、デートのやり直しだよ!」
「女同士のデートか? クラス全員で行くデートか?」
「失礼な奴だな。デートったら、彼氏と一対一に決まってんだろが?」
「そんなにボランティア嫌か? そんな嘘つくほど嫌か?」
 お袋までが、私に味方するような口ぶりで失礼な事を言い出す。
「お父さん、晶だってそう言いたい年頃なんだから許してやんなよ。晶もそんな出まかせ言ってないで、嫌な本当の理由を言って御覧な。怒ったりしないからさ」
「本当に彼氏とのデートだってえの。信じろよ。ボランティアは分かったよ。彼に連絡して、直接謝って許してもらうよ」
「なんだ? 都合が悪くなると『ボランティア行く』だ? 最初に嘘で誤魔化そうとした了見が気に入らねぇや。彼氏ってのはな、人間の、それも年頃の男のことを言うもんだ。女友達や、お年寄り、ちっちゃな子は含まねえんだ。分かったか! この男女!」
「お父さん、最近は女同士の恋愛もあるそうだからさ」
 両親にこうまで言われると、流石の私も腹に据えかねる。
「ちゃんとした彼氏だ! 今度連れてきてやるから、驚いて腰抜かすなよ!」
「おう、そこまで言うなら、ちゃんと耳を揃えて持ってきて貰おうじゃねえか! お前の言う彼氏さんって代物をな。そんな奴がいたら、父さん、拝観料払ってもおしくねぇや」
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