(三)

文字数 905文字

「流石、社長ともなると話が早い」
「で、私どもの見返りは? この二人には随分とお金をかけてましてね。只で解放しろとは虫が良すぎる話だとは思いませんか? お嬢さん?」
 私は自分のスマホを取り出した。そしてそれを右上に掲げる。
「フィルムその他を黙って処分して、今後この二人に手出しをしないと約束してくれたら、私も黙ってここから帰る。お互い面倒なことには巻き込まれたくないだろう? そうはいかないと云うことになると、私もこのまま通報するしかないな。そうなれば、痛くもない腹だって、探られるんじゃないのか?」
「さて、どうしましょうかね……」
 自分でもかなり危ない賭けだとは思っている。だが、相手はテーブルの向うに座っている一人だけだ。こちらには三人いる。最悪通報する時間位は稼げるという判断だった。通報した後、暴行される危険性はあったが、奴らは私に報復するより、逃げる方を優先すると考えていた。いや、私は相手は私の要求を呑む以外ないと信じ切っていた。
 その時、意外にも、私の後ろから手が出て、私のスマホはあっさりと取り上げられてしまったのだ。私が振り返ると、それはあの男子高校生だった。
 次の瞬間、社長の合図でここの社員(社員とは名ばかりだろうが)が一斉に入ってきて私を羽交い絞めにして取り押さえる。何が起こったのだ?
 アロハのチンピラも入ってきていた。そいつは男子高校生に「ご苦労だったな」と言っている。そして男子も嬉しそうに応えていた。
「ど、どういう事なんだ!」
「馬鹿ね、まだ分からないの? あなた、私たち二人の演技に騙されたのよ」
 女子高校生が、腕を組んで憎らし気に笑みを浮かべていた。
「ば、馬鹿な。あなたたちは嘘なんか吐いてない無い筈。顔も引きつっていなかったし、声も変わって無かった……」
「本当にお馬鹿さんね。そんなの、役者の私たちは自己暗示でいくらでも誤魔化せるのよ。そうじゃないと、映画とかが嘘っぽく見えるでしょう? 私たちはそもそも高校生ですら無いのよ。そんなのにも気付かなかったの? そうだ、良い言葉教えてあげる。よく聞いてね、『生兵法は怪我のもと』。これから気をつけるのね」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み