(三)

文字数 1,386文字

 社長は気障な雰囲気で私に言葉を掛けた。
「すみませんね、お嬢さん、お待たせしてしまって。さぁ、撮影の準備が出来たようですよ。お嬢さんの衣服が少し裂けたり、ボタンやホックが跳んだりするかも知れませんが、その分の保証はさせて頂きますからね、ご安心を。では、たっぷりとお楽しみください。普通では味わうことのできない世界ですよ。」
 何も答えない私に対し、社長が言葉を付け加える。
「十人並みの容姿でしかないあなたでも、こういう仕事が出来ればアイドル扱いなんですよ。女子高生である間はですけどね……。もし、このお仕事が気に行ったら、また是非声を掛けてくださいね」
 社長はそれを言い終わると、私の腕を押さえている男たちに合図を送った。

 私は思いっきり撮影用のベッドへと突き飛ばされた。そこに待っていたのはパンツ一丁の男たち。こいつらは、起き上がる間も与えず私の両手を取って仰向けに動けなくする。そして、もう一人の男が、脚をばたつかせて暴れる私の身体に跨った。私はこいつの股間を蹴ってやれば良かったと後悔したが、もう後の祭り、腹の上に腰掛けられ、もう蹴ることも出来ない。
 もう撮影は始まっているらしい。フィルムがまわる音でもするのかと思ったが、そういう物でも無いようだ。ただ、撮影用の照明が異様に眩しくて目を開けていられない。
 私に跨った男は、私のブレザーを開けてブラウスに手を掛けた。そして布地を掴んだまま、一気に左右に引きちぎる。ブラウスは無残にも破られたに違いない。私は瞬間、目を閉じていた。その前にブラウスの小さなボタンが宙に飛んでいくのを見たような気がする。
「たすけて……」

 丁度その時、部屋の外で荒々しい物音が響いていた。
「ちょっと刑事さん!、何、勝手に入ってくるんです。困りますよ!」
 そんな声が聞こえる。私は正直、大声をだして叫びそうだった。
「助かった!」
 撮影スタッフが、部屋の扉を内側から鍵掛けた。そして社長を始め、撮影に加わった奴らは私を置いて一斉に扉と反対方向に逃げて行く。どうやら、いざという時の為に非常口が用意されているようだ。
 奴らに逃げられる?
 その心配は不要だった。奴らが逃げようと開いた非常口から、逆に捜査員らしき人たちがなだれ込んで来る。もう全員一網打尽だ!
 捜査員の一人だろう、誰かが私に上着を掛けてくれる。
「君、もう大丈夫だよ」
 私は安心したのか、段々と気が遠くなっていった。

「本当、凝りない娘ね。勇気は大切だって言ったけど、ここまで来ると勇気じゃなくて、蛮勇ってやつよ。無謀としか言いようがないわね。」
 私には返す言葉が無い。でも、この声は……。
「反省させる意味でも、あなたがたっぷりと奴らに回されて、心がズタズタになってから突入しても良かったんだけど、馬鹿息子と喧嘩になるから、ぎり現行犯になるところにしたのよ。感謝なさい」
 なんだ、助けてくれたのは耀子さんだったのか……。私は夢うつつにそう思った。すると修一も来てくれたのかなぁ?
「あれが来たら大変よ、あいつ興奮すると見境いが無くなるから、こいつら皆殺しになっちゃうわよ」
 そうね、修一はキレ易いから、何をしでかすか分かんないものね。
「そうね。でも、『何をしでかすか分かんない』なんて、修一もあなたにだけは言われたくないと思うけどね」
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