第67話 とらわれた女

文字数 1,776文字

一方クレアはまだ牢屋に囚われたままだった。
召使いはあの後一通り知っていることについて話してくれたが、それ以降はあまりここに近づかなくなった。
そして次の日の夜になって、サルドが現れた。
サルドはゆっくりとクレアに近づくと、クレアの牢屋の目の前に椅子を持ってきてこしかけた。
「恐れ入ったよ。君の行動力には」 
クレアは尋ねる
「私をどうするの?」
サルドはゆっくりと下をみる。
「死んでもらおうかともおもったが、今は時期が悪い、少しここでおとなしくしていてもらうよ」
クレアはなんとなく、ここに何日か囚われた後、自分が殺される事をさとった。
「どうせ殺すのなら、せめて彼に何をしたのかを教えて」
サルドは悲しそうな素振りをみせる。
「どうして彼にそうこだわるんだ。たかだか一介の職人風情に。領主の妻になりたくないのか…街の他の女など飛びついて喜ぶのに…」
クレアは返す。
「ならそういう人を選べばよかったのに、ない物ねだりなのね」
サルドは頭を抱えていた。
「どのみち、彼は戻らない…君も薄々わかってるんだろう?」
クレアはサルドの言葉を気にせず続ける。
「これに書いてあった実験ってなんのこと?どうせ生かしておかないのならせめてそれだけでも教えて」
クレアの覚悟を決めた目をサルドはそらした。
だがゆっくりと話し出した。
「彼は神になる研究の実験に使われたんだ。具体的に何をしたのか、ということは私にもよくわかっていない。父によると帝国がそういう実験をしていて、その人柱にされたんだ」
クレアが尋ねる。
「神?」
「帝国は以前からその実験に使う人の生贄を欲しがっていた。だが、この街の人間を使えば、いずれ街の民に発覚した時に反感を買う。だから父は君たちのような移住者を生贄に差し出すことに決めたんだ」
クレアは領主の残虐性に驚いて呆然とした。
「どうしてそんなことが簡単にできるの?」
サルドは苦しそうに答える。
「知らなかったんだ。生贄も最初父は、その人たちはただ帝国の実験に参加しているだけでそれが終われば、他の地区で暮らせると、そう言っていたんだ。だからリクードをちょうどその時期に連れてくれば、自然と余った君を祭りに連れて行けるとそう思っていた。実際に結婚までしようとはあの時は考えてはいなかった。でもどうしても帝国の幹部に移住者との共存がうまく行っていることを見せる必要があったんだ。それには君がどうしても必要だった」
クレアはなんとなく察した。
――今回の誘拐も、帝国との取引も全て最初に仕組んだのはこの人の父である領主なのだろう
この人も狡猾だけど、お父さんほどじゃない。結局は父親の言うことに従っているのに過ぎないんだわ。
だがそう思ってもなお、クレアのサルドに対する怒りは無くなりはしなかった。
「気づいた時にやめさせられたはずよ…それにいつか街の人に気づかれたらあなたもタダじゃすまないわ」
サルドは苦笑しながら半ばあきらめに近い表情を浮かべていた。
「父には逆らえない…それに街の民にこの企みがわかるはずかない。この地区の人間は皆うちの父に感謝しているからだ。それに一番の証拠である神は明日始末される。獣狩りにな」
クレアは聞き返す。
「どういうこと?」
サルドは続ける。いずれクレアが死ぬことになるという油断もあるのか、サルドは特に重要な秘密を喋っていることも気にしている様子はなかった。
「実験で神は作れたんだ…でもなぜか暴走して犬の獣になってクンクラの森に住み着いたと、帝国の人間から報告があった。それを処理してもらうために獣狩りをやとったんだ。高い金を出してね。さっき銀の爪の男から明日奴を狩るから協力してほしい。という話があった。彼らは一流だ。失敗したという話は聞かない」
クレアは怒りで身が震えた。
「全て殺して…なかった事にするの?」
「暴走なんてするからだ。私は悪くない。君だってそうだ。余計に詮索なんてして…初めから大人しく私を選んでいれば彼を私が実験の対象として選ぶこともなかった」
めちゃくちゃな言いがかりにクレアは怒りを通り越して呆れていた。
サルド自身は確かに領主ほどの残虐性はないが、自分のしていることを正当化する点や、意にそぐわないことに対しての器の小ささはそっくりだった。
サルドはクレアに捨て台詞を吐き捨てた後、そのまま地下室を後にした。
クレアは絶望してその場で泣き崩れてしまった。
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登場人物紹介

少女:リコ

小太りの男:カルケル

入れ墨の男:レンド

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