第50話 地下室の鍵

文字数 2,449文字

一方クレアは、召使の一人に連れられて館の中を案内されていた。
館の中はとても広く、どの部屋もクレアが通された部屋と同じように豪勢なつくりになっていた。
大半の部屋には領主が、各地区との交易で集めた品や芸術品が所せましと飾られていた。
クレアは領主ともなるとこれほどの贅沢ができるのかと半ばあきれていた。
前住んでいたイパルの街にも時折、地区を統べる領主が来ることがあったが、街のそれぞれに実効支配を任せている面があったので、領主にそれほど権力が集中していない形だった。
それゆえ領主の根城もあるにはあったが、ここまで大仰なものではなかったのである。
どちらかというと、サルドの父、ラルドのような領主の方が、領主の中では大多数を占めるが、クレアはそんなことを知っているわけではなかったので、終始雰囲気に押されていた。
召使は2階から一通り部屋を紹介してくれたが、地下室の事だけは触れることもせず、案内を切り上げてしまった。
案内の道中に出会うほかの召使もクレアに対してかなりそっけない態度をとっていたので、
クレアはどうやら召使全体に嫌われているらしいと思い始めていた。
クレアはさすがに地下室の事は聞けず、自分の部屋に戻ると召使に見せてもらった部屋の配置の記憶と設計図を比べた。大体のところは同じで、やはり地下室だけが紹介から省かれていた。
そうしているとドアをノックする音が聞こえた。
クレアはドキッとしてすぐさま設計書をカバンの中にしまうと、
「どなたですか?」
と聞いた。
「サルドです。入ってもよろしいですか」
と声がしたのでクレアはドアを開けた。
「クレアさん。すみません迎えもせずに、少しお邪魔しますよ?」
そういうとサルドは中に入ってきた。
サルドはリクードやクレアより7つほど年上だったが、見た目はもう少し上に見えた。
「召使から、一通り案内を受けたことは聞きました。どうですかここはさすがに広いでしょう」
そういうとサルドは自慢げにクレアに笑いかける。
クレアはいまだにサルドの張り付いたような笑顔が苦手だった。
だがここは怪しまれるわけにはいかないので精一杯演技を始める。
「はい。皆さんとてもいい人たちですね」
クレアがそういうとサルドは満足そうな表情を浮かべる。
「皆には丁重にもてなすように言ってあります。何かあったらすぐにいってくださいね」
そういいながらサルドはクレアを抱き寄せようとする。
クレアは促されるままになる。
「全く夢のようです。あんなに拒まれていたのに…やはり愛は伝わるものですね」
クレアは不快な顔をうまく隠している。
彼女が領主の館に行くと決めてから、一番上達したのは顔に感情を出さないようにする演技だった。
「サルドさん。まだ、夜になっていないし恥ずかしいです。身支度もありますし…」
そういうとクレアはうまくサルドを引き離して、カバンを整理したりするそぶりをした。
サルドは残念そうにすると、挨拶をしてクレアの部屋を後にした。
クレアはサルドが部屋から出ると、身の震えを抑える。
何とか今まで耐えてきたが、そろそろ限界が近かった。
それもすべてはリクードの行方を知るため、真実をつかむためだった。
夜になり、夕食が終わって少し経つとクレアはサルドの部屋に呼びだされた。
サルドの寝室は他の部屋にも増して豪勢で、彼がいかに領主から寵愛されているかを表していた。
領主には4人ほど子供がいたが、サルドは長子で他はすべて女の子のため、後を継ぐのはサルドしかいないとされていた。
「さあ、お入りください」
そういわれクレアが中に入ると、サルドは半ば強引に、クレアを襲った。
さすがのクレアもここは断れずに、行為を受け入れざるを得なかった。
事が終わると、サルドは満足して寝てしまう。
クレアはことの最中、吐きそうなのを必死でこらえていて実際の行為自体は短い時間だったにもかかわらずその時間はまるで永遠に等しく感じられた。
サルドが寝息を立てているのを確認すると服を一枚はおって彼に気づかれないように部屋の周りを見渡した。
まずサルドが脱ぎ散らかした服の上着をこっそりと取って中身を確認する。
すると右胸の内側のポケットの中に見慣れたお守りが入っていた。
それはイパルの街に古くから伝わるもので中に持ち主にとって大切なものを入れる風習があった。だがお目当てのものはこれではなかったのでいったん自分の服のポケットに入れる
次にベットの横に引き出し付きの小さな机があるのをクレアは見つけた。
彼女は音が出ないようにその引き出しをそっと開けると、2段目の中に鍵の束があった。
彼女にとって勝負をかけるタイミングはここしかなかった。
少し体調が悪くなったので、自分の部屋に戻ります。という旨の書置きを残すと、その鍵束とお守りを服のポケットにいれ、引き出しをそーっと閉める。
そしてサルドを起こさないように部屋を出ると、ゆっくりと階段を下りて行った。
召使たちも夜は寝ているようで、廊下には誰もいなかった。
一階まで下りると、設計書を頭の中で思い浮かべる。
地下室は一階の奥の扉を開ける必要があった。
その鍵が先ほどクレアが手に入れた鍵束に入っているとクレアは踏んでいた。
クレアはいくつか鍵を音を立てないように試すと、3つ目で鍵がうまくはまり、鍵が開いた。
扉を開けるとその先は下へ続く階段になっていたので、クレアはそーっと下に降りてみた。
地下室は設計書とは違っていた。
設計書上はただの広い空間のようなイメージだったが、実際は牢屋のように檻がついている箇所が5か所くらいあった。
檻には鍵がかかっていなかった。
クレアはいくつかの檻をみていたが、その中にいくつか書類のようなものがある牢屋を見つけた。
その中の一つを取って読んでみると、詩が書いてあった。
内容は牢屋にとらわれていることや故郷の恋しさを謳ったもので、読んでいくとクレアは少し懐かしい感じがした。
何となくクレアはこれはベルのものに違いないと感じていた。
そしてもう一つの別の牢屋に入ると、そこには手記のようなものが書かれていた。
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登場人物紹介

少女:リコ

小太りの男:カルケル

入れ墨の男:レンド

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