第59話 心臓の秘密ともう一つの真実

文字数 3,576文字

全てをグラントとレンドに白状するとピントの緊張の糸が切れたように涙がほほを伝った
一呼吸置くとグラントがピントに喋りかける。
「最初に言わなかったのはやはり奴を殺させたくなかったからか」
ピントはそれには直接的には答えずにグラントとレンドに怒りをぶつけた
「あいつをどうして殺すんだ。お前たちみたいにわざわざ殺しに来た奴以外にはあいつは手を出さない」
レンドは冷静に返す。
「それが仕事だからだ」
ピントは返す。
「仕事だったら、何もしていない獣も殺すのか…あんたらの仕事なんてくそくらえだ」
どれだけ怒りをぶつけられてもレンドの感情は動いているようには見えなかった。
「そうだな。だがそれを依頼しているのはお前の街の領主だ。どちらがくそくらえなのかはお前の中で判断しろ」
ピントは返す刀で反応する。
「あんたも領主もくそくらえだ」
レンドはため息をつくと、ピントにゆっくりと反論する。
「もしお前が本当にあの獣を殺させたくなかったのなら、はやく帝国の荷物を持った商人を襲うのをやめさせるべきだった。そのせいで領主は奴を殺す命令を出したんだろう?」
これにピントは返せなかった。
事実エルが荷物を襲い始めていると聞いた時、ピントは最初は目立たぬようにやめさせようかとも思ったが、サルドの鼻もちならない表情が忘れられず、どうにか奴に被害を与えたいという思いが消せず結局したいままにさせてしまった背景があった。
一方でグラントはなぜピントからしか聞いていない情報をレンドが知っているのかと思った。
レンドは仕切り直してグラントとレイルに向かって話し始める。
「奴を殺すにはいくつか手順が必要になる」
グラントが疑問を呈す。
「手順だと?」
レンドは続ける。
「まず俺たちは役割を分ける必要がある。一方が獣の活動体を追い詰める役目、もう一方が心臓部をしとめる役目だ」
グラントは鼻で笑った。
「大層なことを言い出すからなんだと思えば、そんなんであの獣が死ぬとでも?」
レンドは首を振った。
「おそらくお前が今考えているのは、お前たちがベルグールと一緒に襲った心臓部の事だろう」
グラントは驚く。
「ちがうと?」
レンドはうなずく。
「この作戦を理解してもらうにはその背景から離す必要がある。なぜこの結論に至ったかという…。だがその前に俺の能力について説明する必要がある。だが俺らの能力は獣狩りの中で広がりすぎると、仕事がしづらい。だからここで聞いた俺の能力については他言を慎むようにすることを誓ってもらおう」
そういうとレンドはレイスの契約印を取り出した。
レイルは当然怒り出して
「そんなもんを使う気はない!」
とレンドに言った。グラントも銀の爪の能力の詳細まで把握できるならそんなチャンスは今後もなかなか訪れないように感じたが、それでレイスを使うのは少しリスクが高すぎる気がした。
だがレンドはその反応を分かっていたように
「この交換条件に俺は報奨金はお前らに支払われるように推薦するということを誓おう」
といった。
そこまでいわれるとグラントに断る理由はなくなった。渋るレイルを説得し、レイスの契約印を使う。契約書を見届けるとレンドは自分の能力が高機能の耳である事を二人だけに打ち明けた。
グラントはいろいろなことに合点がいった。
と同時に今まで酒場の会話などもすべて筒抜けだったことにいら立った。
そして一息つくとレンドは説明を始めた。
「奴と最初にお前が戦った時、奴の構造は少なくとも拡大型ではないということが分かった。そしてそれと同時に気づいたのは奴自身の体からは本来あるはずの拍動が感じられなった」
「拍動?」
レンドは続ける。
「拡大型の獣は皆心臓部が本体にある。だから心臓部が拍動していればその音を拾うことができるんだ」
レイルは最初に戦った時の獣には拍動はなかったという話を必死で理解しながら答える。
「てことはやはりあいつは伝承型ってことじゃないのか?」
「最初は俺もそう思ったが、グラントが襲われた時があっただろう。突如あいつの動きが変わった時だ。あの時、奴から拍動を感じた。」
これにレイルは困惑する。
「どういうことだ?」
「ここは予想だが、奴は恐らく心臓部の場所を移動できるんじゃないかと思う」
グラントは驚いて尋ねる。
「そんなことが可能なのか?」
レンドはうなずく。
「龍の獣が白だとすれば、それはそこまで驚くことじゃない。他の獣でも意図的に心臓を殺させないように移動させられる奴はいた」
ここでグラントが口を挟む。
「仮にそうだとすると奴は雷の能力と心臓部の移動っていう能力の二つを持ってるという事か?なら奴は複数の能力を持てるってことになる」
これにレンドは考え込んだ表情をする。
「それについては後で説明する。だが俺はそう認識してる。龍の獣自身もただの白じゃない」
グラントはさらに疑問をぶつける。
「仮に奴が心臓部を移動できるとしても、奴は心臓部をやっても死ななかったぞ」
レンドはうなずく。
「ベルグールとの時の戦いのときのことを言っているのだろう。だが俺はあの時の出来事とその後のオレガノとの話でほぼあいつの構造の正体については確信を得た」
グラントはまずレンドがあの場にいたことに驚く。
「お前、あの場にいたのか」
「離れていたがな、あの時、まず心臓部に見えるものをお前らが掘り当てた。
その時、たしかにあの心臓部には拍動があった。だかベルグールが攻撃を始めた時、もうあの心臓からは拍動はしなくなっていた」
グラントは困惑した。
「どういう事だ?」
「恐らく奴の能力で、いったん活動体の方に心臓部を移動させたのだろう。その証拠に攻撃的な方の獣が現れた。当然そちらには拍動があった」
そこまではなんとなくグラントも覚えていた。
「だが、ベルグールが奴を痛めつけてもあいつは死ななかったぞ」
レンドは遠い目をする。
「奴の捨て身の攻撃の後、あの獣に集中攻撃をかけただろう。その時、一瞬獣の様子が変わったはずだ」
グラントはその時を思い出した。
――確かに倒れた後、攻撃された瞬間。奴は瘴気を出しながらおとなしくなった。
「その時、拍動はあの獣自身から消えていた。そしてその後お前が球体の心臓部に矢を放った。ここが肝心だ」
グラントも聞き入っていた。グラント自身も気になっていた部分だ。
「あのタイミングで矢を刺されても球体はびくともしなかった。だがあの時実際は矢が刺さった球体の方の心臓部からは拍動はしなくなっていた」
グラントは驚いた。
「なんだそれは。まさかあの矢が打たれたタイミングで獣自身に方に戻ったと?」
レンドは首をふる。
「いやあの時、心臓、獣どちらからも拍動は聞こえなかった」
グラントは話が見えず少し混乱する。
「どういうことだ?」
レイルが憤る。
「お前まさか俺達を混乱させようとしてるんじゃねえだろうなあ」
「その時は俺もなぜ両方共から拍動が聞こえなかった理由は分からなかった。だがその後でオレガノがピントにしたという話を聞いてピンときた」
ピントは急に自分が出てきて驚いた。
「もし仮に、龍の獣が、移住者たちの願いを聞き入れているのだとすれば、奴はそのタイミングで祠にいなくてはならない」
ピントもそれは少し考えていた。
――あの龍はあの時俺の願いを聞いてくれたのだろうか、でもあの場に龍はいなかった。
「そこで一つの仮説が立つ、実は祠にもう一つ心臓部があるんじゃないかということだ。」
グラントはかなり驚いていた。
確かにそれならば、あの時心臓部を刺しても死ななかったのはうなずける。
「だがそれだと…」
レンドはうなずく。
「この時はそれは仮説だった。それにだとすると能力が複数あることになる。雷、心臓部の移動、そして心臓を多数持てる。仮に龍と犬の獣の合体だとしても3つ目の能力があるのは不自然だ」
グラントはうなずく。
「まず大前提の三つ目の心臓部の仮説の検証だが、俺はあの後、一度祠に行ってみた」
ピントが反応する。
「祠にいったのか」
「ああ、だが祠を一通りくまなく探したが、祠には特に怪しい部分はなかった。だが問題は下の土だった。試しに祠の近くの下の土の音を拾ってみたら、祠の真下の土で反応があった」
リコは自分が知らない間にそんなことをレンドがしていたとは知らなった。
「反応だと?」
「地下に一か所反応が変わる箇所があった。おそらくあれが第三の心臓部だろう」
レイルはまたレンドにかみつく。
「そこまでわかったんなら、なぜそれに攻撃しねえ」
「そこだけに攻撃しても、心臓を他に移されたら元の木阿弥だ。やるならいっぺんにやる必要がある」
グラントがまとめる。
「だから俺たちが必要だってのか、全くふざけやがって」
「そしてもう一つ、奴がなぜそこまで多様な技を持っているかだが…」
レンドはチラッとピントの方向を見た。
「これはおそらくお前も知らないかもしれない。奴の元になっている動物は人間の可能性が高い」
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登場人物紹介

少女:リコ

小太りの男:カルケル

入れ墨の男:レンド

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