第48話 真実への接近

文字数 1,937文字

バールの街に向かう途中で、リコはレンドに気になっていたことを聞いてみる
「いつもクレアの酒場で使ってる技って、広円と極点とは違うの?」
レンドは面白そうな眼でリコを見る
「まあそう思うだろうな。あれは深間、極点や広円とは少し毛色が違う」
「どういうこと?」
「深間は耳に自動的に記録させるんだ。対象の空間の音をな。同時でいろんな音を拾う分、技を使うまでに範囲調整の時間も長くかかる。だから時間勝負だったヘルナンドでは使わなかった」
リコは謎がようやく解けてすっきりとした。ついでに獣についても聞いてみる
「レンドはあの獣の正体をなんだとおもっているの?」
レンドは少し考えて答える。
「まだ完全には分かり切っていないが、おそらくただの伝承型でも拡大型でもない可能性が高い。」
リコは聞き返す。
「どういうこと?」
「通常の獣の構成を発展させた形…とでもいうべきか」
リコにはレンドの言っている意味がよく分からない
「発展?」
だがレンドはかなり確信めいた表情をしていた。
「今回はおよそ、それを確信づけるためという目的だ」
「倒す方法はあるの?」
「考えてはいるが、まだいくつかの情報が必要になるだろうな。それにグラントとも交渉が必要になるだろう」
これに少しリコ驚いて聞き返す。
「どうして?」
レンドは少し諦めたような達観した表情をする。
「この獣は一筋縄では行かない。俺一人ではおそらく、倒しきれない可能性が高い」
リコはレンドが一人ですべて倒しきると考えていたので少し意外だった。
「でも、仲悪くなっちゃったままだよね」
レンドはリコを誰のせいだといわんばかりで見て苦笑する。
「そうだな。ここから協力関係を作るには必然性と、向こうへのメリットがいる」
そう言うと、それ以降はリコが何を聞いてもレンドはあまり答えてはくれなかった。
そしてその日の夕方にバールに着くとすぐさま、近くの酒場張り付いて聞き込みを始めた。
酒場での聞き込みを終えると、その後も一通り街を回り、一通りそれが終わると、結果をまた手帳にまとめていた。
リコは少しくたくたになりながらレンドにしゃべりかけた。
「あの獣を見たって話は聞かなかったね」
レンドに特に驚いた様子はなかった。
「ある程度、その予想はしていた」
「これで何がわかったの?」
レンドはその質問には特に答えずまた何やら記録を書き続けていた。
リコとレンドは一晩そこに泊まると、あくる日今度は馬車に乗せてもらい、リクソスの街まで戻ってきた。
戻ると、リアルドが今か今かと二人を待ち構えていた。
「銀の爪さん。どうなっているんだ、ピントのやつもう1週間も戻ってきていないぞ。まさかグラント達にやられたんじゃないだろうな」
レンドはリアルドの話を手で制すと。
「ピントは無事だ。まだ生かされている」
とそういった。
「生かされているってあんた。連れ戻してきてくれるっていったろう」
レンドはリアルドに冷静に告げる。
「奴はまだピントを殺さないさ。それよりあんたに一つ聞きたいことがある。ピントについてだ」
リアルドは神妙な面持ちになった。
「何が聞きたい?」
「あいつに起きた出来事が知りたい。だいたい一年前の獣が現れる前後くらいのタイミングだ」
リアルドは悩んでいる様子だったが、それが獣を倒すのに重要になるとレンドに言われると少しずつ話し出した。
「ちょうど一年前になるか。あいつの妹が生贄の対象に選ばれたんだ。」
「生贄?」
「そうリクソスには3年に一度生贄を選ぶ儀式がある。その対象に選ばれたのがピントの妹だった」
レンドは考え込む表情をした。
「それで?」
「本来生贄に選ばれるのはかなり名誉なことなんだが、ピントの両親は妹のレイをひどくかわいがっていてな。生贄になった後は大層落ち込んでいた」
レンドは考えて儀式について尋ねる。
「生贄の儀式はどうやるんだ?」
「あまり具体的には俺達も知らされていないのだが、クンクラの森に入って、そこで生贄の儀式を行うらしい」
ここにレンドは食いついた。
「なるほど、森に入るのか。それは生贄が一人で?」
「例年はそうなんだが、後で両親に聞いたら、道案内のためにピントは森に入ったらしい。
そして妹はめでたく生贄になり、儀式は遂行されたんだが…」
「が?」
リアルドは悲しそうな顔をする。
「そこからピントの両親は少し心を病んでしまってな。特に母親の方が…それで父親がいまは商売を切り上げて彼女の世話をしている。幸い儀式の対象になった家族は報酬が出るからくいっぱぐれることはないが、ピントは儀式を手伝った手前、あまりにいづらくて家を出たそうだ」
そこまで聞くとレンドはかなり満足そうな表情を浮かべていた。
「なるほど、助かった。これでかなり確信に近づける」
そういうとレンドはリコを連れてピントの親のいる家へと向かった。

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登場人物紹介

少女:リコ

小太りの男:カルケル

入れ墨の男:レンド

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