第9話 元帝国の剣士

文字数 1,759文字

「あれは銀の爪のしわざか、余計なことをしやがって…。」
傭兵団の部下の一人であるレイルがグラントに話しかける、
「やはり伝承型なのでは?圧倒的に攻撃がとおっているのになかなか死なないですよ。」
グラントはレイルをにらみつけると、
「お前、獣狩りは何回目だ。」
「3回目になります。」
「その程度の経験で、口を挟むな、あの獣については他の情報筋から、確実に拡大型だっていうネタがあがっている。」
グラントのあまりの迫力におそれをなし、レイルは縮みあがった。
グラント自身はもとから獣狩りで名をあげた傭兵ではない。
元は貧しい傭兵の子供として生まれ、物心つくから父親に剣士となるように戦いを教え込まれた。そのかいあって、帝国の兵士募集に参加し帝国の兵士になると、その強さから大隊の切り込み隊長になり、帝国拡大初期の戦争では200人以上を葬ってきた。
だが帝国の軍上層部から派遣されてきた指揮官の多くはコネで成り上がった、ただの世渡り上手な人間が多く、戦闘経験が乏しいため、隊を危険にさらす命令ばかりを強制した。
グラントはそんな帝国の軍の雰囲気に嫌気がさし、帝国を抜けたのであった。
当時の帝国軍でグラントに命を救われたものは多く、またその強さと筋を通す性格が人望を高め、軍を抜けた彼の周りに多くの人間が集まるようになっていた。
これがグラントの傭兵団の始まりであった。
始めたころはまだ帝国に支配されていない国家が多く傭兵の仕事も多かったので、順調に資金繰りをしていたが、帝国の完全支配が近づき、支配による平和が進むと、徐々に仕事の内容は戦争や戦いというよりも、護衛や便利屋、運び屋などの仕事が増えてきていた。
そのなかで、最も報酬が良いのが獣狩りだった。
害獣は被害の度にもよるが、ほっておくと多くの場合1集落の人間をまとめて殺せるくらいの力を持っており、獣狩りは今や、その街の存続をかける重要事項になっていたからである。
そんな世界で、獣狩りが増える中、グラントの傭兵団は特に専門知識があるわけではないが、
腕の立つ傭兵たちも集まっており、情報屋の情報や数の力を使い、獣狩りで一定の成果をだしていた。
だが、一時期から害獣の強さは飛躍的に上がり、倒しづらくなっていた。
傭兵団の評判から、人は増えていたが、単純な数の力で押せない獣に対してはグラント達は不利になることが多く、徐々に失敗もかさみ資金繰りが厳しくなっている。
そんな中で、今回は情報屋のバルガスから拡大型であるという情報をつかんでいたということもあり確実に自分たちの手柄として報酬を独占したい狙いがグラントにはあった。
「そういやバルガスはなんて言ってたんです?拡大型で間違いないんて、よっぽど自信がないといえねえ。」
グラントはバルガスとの取引を思い出しながら答える。
「あの獣の拡大前のベースになった犬の飼い主が街にいるらしい。なんでも癖が完全に同じだそうだ。」
「なるほど。ちなみにその癖ってのは?」
「なんでも奴は片目にきずがあったらしく、そのせいで右に首を3度ふるくせがあるらしい。」
レイルはふと疑問を口にする。
「でもあいつは片目どころか3つ目ですぜ?」
確かに獣の目には傷はなく代わりに真ん中に目がついているのみだった。
グラントはあまり気にする様子もなくこたえる。
「瘴気で変化したときに増えたんだろ。だが癖は簡単には消えねえ。あれは害獣になる前の癖って分けだ。」
「そんな情報よく手に入れましたね。」
情報屋とのやり取りを思い出し、グラントの顔が少しゆがむ。
「高くついたが…それにみあう価値はあった。」
実際グラントはこの取引で情報屋にかなりの額を払っていた。
正体がわからない獣との戦いにおいて最も重要視されているのが獣の情報である。
特にその獣が伝承型か拡大型かを見極めるにはその地域に根付いている伝承の情報やベースになったとされる害獣の情報が狩りの全てを握っている。
そしてその情報を扱う情報屋は当然のように扱う値段を吊り上げるようになっていた。
グラントは獣狩りの対象を決める必要があるため情報屋とも主で取引を行う必要があったが、
戦いの中で生きてきたグラントにとって、
姑息に値段を吊り上げる情報屋との取引は反吐が出るようなものであり、またそれに頼らざるを得ない現状と自分にやり場のない怒りを抱えていた。
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登場人物紹介

少女:リコ

小太りの男:カルケル

入れ墨の男:レンド

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