第22話 質問の答え

文字数 2,381文字

2人が村に戻った頃、バルガスは隠れ家にいた。
しかしバルガス自身は椅子に繋がれていて、目の前には3人の手練れ、レイルとその連れがいた。
バルガスは何とかして逃れる術を必死に考えていたが状況は芳しくなかった。
「さて、知っていることを全て話してもらおうか。なぜ俺たちをはめた」
バルガスは反論する。
「俺ははめてない。あの獣には特殊な癖があることを伝えただけだ」
だがレイルは聞く耳をもたない。
「うるせえ。てめえのそれに振り回されて何人やられたかわかってるのか、グラントですらもうちょっとでやられてたところだ」
レイルが凄む。バルガスは繋がれていながらも冷静に返していた。
「一つ聞きたい…その癖はなかったのか?獣は首を捻る癖があったはずだ」
バルガスは少し考えこんだ。
確かに獣には癖はあったのだ、情報自体は間違っていなかった。
「うるせえ、てめえがそんなこと言い出さなきゃ拡大型だと思わなかった。」
バルガスは冷静だった。
「なぜ拡大型じゃないと言い切れるんだ。お前らがたまたま仕留めきれなかっただけじゃないのか」
レイルは怒る。
「まだ言うかてめえ、あれがただの拡大型なわけあるか。こっちから攻撃するまでは手も出して来ねえ、いくら攻撃しても全く倒れねえ。完全に伝承型の特徴じゃねえか」
レイルはグラントには言い出しづらかったが、直接戦った分あの獣にかなり違和感を感じていた。拡大型とはとても思えない習性の特徴をたくさん目にしたからである。
「俺は嘘を伝えたわけじゃない。元になった犬の癖をあの獣はもってる」
ここにはレイルもあまり反論できなかった。
だがその矛盾を解く鍵は目の前のバルガスが持っているような気がしていた。
一方でリコとレンドはリクソスの酒場についた。
夜もかなり老けてきていたが、こちらの酒場も活気で溢れている。
2人はたまたま空いた椅子に腰掛けた。
レンドはあたりを見回し、また胸の刺青をまわしながら、目を閉じる。 
リコはふとレンドはバルガスとのやりとりの中でレンドが何の答えを得たのか考えていた。
おそらく酒場に来ているということは情報主は酒場に出入りしていて、
酒場に来れるということは大人という可能性が高い所まではなんとなく考えついた。
リコは以下のように推測する。
『レンドは7つ質問をしていた。その中で『お前はバルガスか?』という質問を除くと
質問の数は6つ、酒場に来ているということは情報元は大人?
仮に情報元が大人だとすると、『子供か?』の質問が最初の間違い。
残り2つ間違いと1つ動揺した答えがある。』
レンドは数分目を瞑っていたが、ふと目を開けると、近くにいた男に声を掛ける。
この時の質問はリコの予想を完全に覆した。
「この街で学校以外で子どもの集まる場所はあるか」
リコは途端、情報元が子どもであることを悟った。
だがレンドの聞いた相手は訝しむだけであまり答えようとしなかった。
「すまない突然変なこと聞いたな」
そういうとレンドは相手の肩をポンポンとたたき、リコを連れて店をでた。
だがリコはレンドが相手の肩をさわったときに、刺青が移動して相手に渡ったのを見逃さなかった。
レンドが去った後、男は連れの男達と飲みを再開していた。
当然話の流れは先程の質問になる。
「ありゃ銀の爪の野郎じゃなかったか?」
「ああ、おかしなことを聞くもんで、ついかまえちまった。」
「ちがいない、ガキのいる場所なんて聞くのは変人だもんな。答えなくて正解だろ。」
「しかし、学校以外か。んなもんよそもん以外は皆知ってらあな」
男たちは顔を見合わせて頷く。
「ちげえねえ。バルアクさんとこだな」
「あの人もえれえわな。先代が引退してからどうなるかと思ったが、立派にやってやがる」
「街の中心にある塔の補強もあの人の仕事だったしなぁ。もう大工としては先代をこえたんじゃないか?」
「かも知れねえなぁ。街の悪ガキ達もあの人に仕事もらってから、だいぶ騒ぎもおさまったしなぁ。」
男達はそこから昔話に華を咲かせ始める。
レンドとリコは店を出た後、帰り道についていた。
リコがさっきの刺青について質問する。
「刺青移してたね、あれであの人の声が聞けるとか?」
今までの経験からレンドの技はなんとなく把握していたので今回の技もリコは予想はついていた。
レンドは入れ墨を戻しながら答える。
「ああ、あれは人にするのは少しリスクだが、どれだけ離れても相手の声がこっちに入る。
獣狩りには使わないようにしているがな。明日は学校とバルアクって奴のところを回るぞ。」
リコはリスクの内容についても少し知りたくなった。
おそらくそれがないのであればグラントの診療所に行った時も同じ技が使えていたはずだからである。
「情報元は子供なの?」
レンドはリコの問いに答える。
「そうだな、バルガスは子供に良い反応を示していた。」
「そうだったんだ。酒場に来たからてっきり大人が情報源なのかと思ってた。」
「だろうな、酒場に来たのは子供がいる場所を洗い出しておくためだった。学校があるのは知ってるが、あれは小規模だし、行くにも金がかかる。子供全員が行っているかというと怪しい。」
酒場はとにもかくにも情報の集まる場所なのは間違いなかった。
「でも子どもだっていうだけで、絞り込めるの?」
「それ以外にも絞り込める要素はある。鍵なのは今回の情報の内容が単純な嘘ではないってことだ」
リコは尋ねる。
「どういうこと?」
レンドが答える。
「バルガスが示した反応は『グラントに嘘をついたか』、『グラントに獣について意識的に伝えていないことがあるか』『大人か』にたいする否定的な反応、そして『子供か』に対する極端な動揺だった。とすると奴自身はグラントには嘘をついていないことになる」
リコは欲しかった答えを聞けて満足すると同時に、それほど多く質問していない中で
動揺と否定的な反応の違いを聞き分けるレンドの耳の良さに驚いていた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

少女:リコ

小太りの男:カルケル

入れ墨の男:レンド

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み