第56話 妹

文字数 1,821文字

男はピント達の前に立ちふさがって、馬に乗ったまま話しかける。
「いけないガキだ。逃げ出すとはな」
ピントはレイを後ろにする。
「たまにお前たちのように逃げ出す輩がいるらしくてな、そのために俺がいる。」
ピントに戦える武器は何もなかった。
「見逃してくれないか。妹はまだ幼い」
男は残念そうな表情を浮かべる。
「それはできない。仕事だからなあ」
ピント達と男が対峙していると撒いたはずの二人も追いついてきた。
「全くなんて奴だ」
「あの犬はしぶとかったな」
二人は手や顔に傷を負っていた。
「エルをどうした」
レンドが尋ねると、男たちは顔を見合わせる。
「あの犬か?キャンキャンうるさいから、これでな」
男の一人が短剣を取り出す。剣には血がついていた。
「お前…よくも」
ピントは怒りに任せて、エルを傷つけた男の一人に殴りかかる。
がいとも簡単に男に弾き飛ばされてしまう。
「こいつ、やってもいいか?」
短剣を持った男の問いかけに馬に乗った男は考えながら、答える。
「逃亡は重罪だしなあ。妹の方も生贄になるし…別に任せるさ」
言われて男は嬉しそうな顔をして、短剣を構える。
ピントは妹を守り切れないのならここで死んでもかまわないと思っていた。
男がピントに切りかかろうとする。
ピントは襲われるとおもって顔を覆ったが、次の瞬間、爆音が耳を貫いた。
恐る恐る目を開けると、ピントを襲おうとしていた男がその場に倒れこんでいた。
何が起きたのかわからず周りを見渡すと、皆茫然としている。
馬に乗っていない男がうろたえる。
「か、雷だと?」
倒れた男はピクリとも動かずに絶命していた。馬に乗った男があたりを見渡す。
「どこからだ!!」
だがあたりを見渡しても木ばかりで、空も晴天で雷を出しそうなものは近くに何も見当たらなかった。
かわりに血を流した犬が足を引きずりながら近づいてきていた。
男たちは話し合う。
「あの犬がやったってのか?」
「いやただの犬だ。黒くも白くもない」
男たちは犬が害獣かどうかを気にしていた。だがエルの毛並みはきれいな茶色で害獣の特徴とは外れている。ピントとレイはその隙にエルに駆け寄った。
「エル!」
エルは血を流していて、ピント達が駆け寄るとそこに倒れてしまった。
馬に乗った男は次の雷が来ないと思うと、
「まったくなんだったんだ今のは…とんだ邪魔が入った」
と言ってピントとレイに向き直る。
「おとなしく妹を渡してくれ。今渡せばお前は見逃してやるから」
ピントはレイの前に出ると。
「妹が欲しければ俺を殺してからいけ」
と男たちの前に立ちふさがった。馬に乗った男はため息をついた。
「全く仕方がないな。ガキをやるのは俺の主義に反するのだが…」
というと馬に乗った男は馬を下りて、剣を抜き、ピントに向かって振り下ろした。
ピントはかろうじて、交わしたが、レイとエルの前でこけてしまった。
男は悲しそうな顔をすると。こけているピントに剣を突き立てようとした。
ピントは死んだ、と思ったが痛くなかったので目を開けると目の前にはなぜかレイがいた。
レイは笑顔だった。
「お兄ちゃん…」
だがレイの胸には剣がまっすぐ突き刺さっていた。
刺した男は言葉を失っていた。
男が剣から震えながら手を離すとレイは倒れこんだ。
「レイ!レイ!」
「これでよかったの。エルをお願い…」
そういうとレイはピントの手の中で息絶えた
ピントは絶叫した。
エルはピントに抱かれたレイを心配そうに見て、時折鳴き声を上げていた。
ピントは絶望してその場にへたり込んでしまう。
――守りに来たはずだったのに。俺が守られてどうするんだ。
「レイ…」
彼女は冷たくなって動かない。
一方刺した男はかなり動揺していた。彼を他の男たちも焦って責めいていた。
「おい、何やってんだ生贄をやっちまうなんて」
「うるさい!!もとはといえばお前らがこんなガキを取り逃がすからだ。」
二人が話していると体格の良い、乗り遅れた男が追いついた。
「こりゃあ…殺しちまったのか」
レイを殺した男はかなり動揺していた。
「どうする…このガキ」
「見られてしまったからにはもうこいつも殺すしかない。俺たちが生贄を殺したことが上にばれたら一大事だ」
大柄な男の提案にもう一人はうなずいて、剣を取り出す。レイを殺した男は自分がしたことを受け入れられずまだその場で茫然としていた。
ピントもまた絶望していて動けない状態だった。
そして男たちがピントを殺そうと近づこうとすると、後ろから声がした。
「さすがに子供を二人殺すのはまずいんじゃないか?」
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登場人物紹介

少女:リコ

小太りの男:カルケル

入れ墨の男:レンド

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