第54話 裏付ける理論

文字数 2,648文字

これを聞いて最初にレイルが大笑いした。
「これは・・・・とんだお笑い草だぜ。大真面目に何言いだすかと思えば…合体だと?ねえ大将」
だがグラントは腕を組んで表情を崩さなかった。そしてレンドに問いかける。
「なぜそう思う」
「まず最初の戦いだ。あの時、あの獣は拡大型と伝承型の二つの特徴を見せていた。正直あの段階ではまだ何とも言えなかったが、振動弾を撃ち込んだ感触だと奴の構造は少なくとも単一構造じゃなかった。ここで上がる仮設は二つ、伝承型か、もしくは今まで俺が戦ったことのない別の型かというところだった。」
レイルが口を挟む。
「ふん、伝承型に決まっているだろ」
レンドは頷いて見せる。
「当然その可能性は高かった。だから俺はまずここらの伝承を漁った。この地区に犬に関する伝承は一つしかない。バールのものだが、バールであの獣の目撃情報は聞かなかったし、何よりバールの街の伝承に出てくる犬は雷にまつわる神ではなかった」
レイルがまた反論する
「そんなんたまたま、雷になっただけとも考えられる」
「そうだな。だが、伝承型だとすると、基本的にはその伝承に基づいた攻撃方法になることがお多い、拡大型なら攻撃方法も無作為になるのは分かるがな」
これにレイルは黙る。
「そんな時にもう一つの可能性が出てきた。それがオレガノの言っていた雷神だ」
グラントとレイルにとってそれは初めて耳にする情報だった。
「なんだそれは」
二人の問いかけにレンドが返す。
「この町には移住者が多い。その移住者達の神を祭った祠がリクソスのはずれにある。オレガノという移住者の伝承の詳しい人間によれば、そこに願い事をしたときに雷神が手を貸してくれたそうだ」
グラントは首をかしげる。
「手を貸す?」
「具体的にはオレガノ達に必要だった荷物の、運送の邪魔になっていた木に雷を落としたりな」
レイルは馬鹿にしたように笑う。
「たまたまじゃないか?そんなん」
「まあそうだな。だが仮説の一つには十分だった。」
グラントがここで反応する。
「その伝承における雷神とやらの姿は?」
「普段は人型、もしくは龍の姿をしているらしい、元はリシの国の街だからな、龍にまつわる伝承が多い」
「となると今の獣とは一致しないじゃないか」
レンドはうなずく。
「そうだ。だが、俺が気になったのはどちらかというとこの話が出てきたタイミングとその話を知っていた人間だ」
話が見えないのでレイルがいら立つ。
「どういうことだ」
「この話が出てきだしたのはちょうど3年前だ。だが俺たちが今相手をしている獣が出てきたのは…ちょうど1年前。ピントお前が、妹を生贄にとられた時期と重なっている」
全員が何となくピントに視線を向ける。
ピントはうつむいたままだ。
「オレガノはこの話も、ピントにしたといっていた。ちょうど妹が取られる前にな」
ピントは唇をかみしめる。
「お前はおそらく、雷神のもとに妹を逃がしてくれるように願ったのだろう」
ピントは何も返さないがなぜかレンドの表情は満足そうだった。
「そしてもう一つ、これはお前の両親に聞いたが、妹が生贄になった当日、お前の飼っていた犬も一緒にいなくなっている。両親は妹がいなくなったショックであまり気に留めていないようだったがな」
ピントは両親にまで接触されたことに驚きを隠せなかった。そして敵意をレンドの方に向ける。
「お前、親父達にあったのか」
レンドは冷静だった。
「ただ話を聞いただけだ。そしてお前に初めて会った時…『あいつの飼い主はお前か』という質問にお前は正しいという反応を示した」
反応という言い回しがグラントは気になったがいったんここは話の続きを優先させる。
「そこから得られる説は、あの獣は本当にお前の飼い犬が拡大型になった。という説だ」
レイルは混乱する。
「じゃあやっぱりあの獣は拡大型だったってことか?」
レンドはかまわず続ける。
「おそらく、よくなついていた妹が行ってしまうことに耐えらえれなくなった飼い犬が、反応して拡大型になったというところだろうか、拡大型が発生する際、その獣の子供を守るためだったり狩ろうとしてきた人間に対して強い敵意を向けたときに獣が拡大型になった。という話はよく聞く」
ピントはもはや茫然としてレンドを見ていた。
「ここからは俺の想像でしかないが、おそらくそこに雷神も現れたのではないか?オレガノによればお前も彼女も移住者だ。移住者の頼みを雷神が聞くとすれば、雷神がその場に居合わせるのはあり得る話だ」
皆黙りこくってしまった。
「そして、ここは詳しくはわからないが、雷神、犬の獣そしてお前がいるところに製作者も現れた」
ピントは一瞬出会いがしらに製作者に言われた言葉を思い出す。
「ここには人を生贄にする儀式があると聞いてね。ちょうど今日が儀式の日だと言うから、どんなものかこっそり拝見していたんだが…」
レンドは続ける。
「おそらくそこで製作者がお前の獣と雷神を合体させた。と俺は考えた」
今度はグラントが反応する。
「なんでそこで合体なんて言うおかしな話になるんだ。」
「最初は別の獣が2体いるだけなのではないか…とも考えた。だがそれはあり得ないことはお前もよくわかるはずだ。あの獣は少なくとも二つの習性と二つの攻撃方法を持っている
それが、拡大型、伝承型どちらも表すとすれば最も高い可能性は、製作者が二つを合体させたというところが一番妥当だ。」
全員の視線は変わらずピントとレンドに集中している。
「そして、その真実を知るのはお前しかいない」
ピントは苦しそうな表情をしながらレンドに言い返す。
「仮にお前の言う通りだったとして、俺が真実を告げると?」
レンドは苦笑する
「正直な所、ここに来たのはお前の反応を見るためにすぎない、前に会った時に、お前が真実を突かれた時にどういう心拍数になるのかは確認済みだ」
リコはピントの破れた服の上から少し見える肌にレンドの入れ墨がついているのが見えた。
以前はピントに返答をさせていたが、その時の情報で、返事をしなくてもある程度、入れ墨からの心拍数で、ピントにとって言われた内容が真実であることを判断できるところまでレンドは反応を分析していたのだ。
ピントはうなだれる。
――もう何を言っても無駄なのだろう…。
レンドがどういう手法でピントの嘘を見抜いているのか、ピントは分かっていなかったが、なぜか初めて会った時から彼にどんな嘘を言っても通じないような気がしていた。
あの時…妹と一緒に生贄の儀式に臨んだ時、どうすることが正解だったのかを今でもピントは考える時がある。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

少女:リコ

小太りの男:カルケル

入れ墨の男:レンド

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み