第70話 銀の爪

文字数 1,921文字

丘では新たに龍の獣が現れたことに人々が驚いていた。
「あれは龍?か龍がでてきたぞ」
「こりゃすごい、獣が二体おる」
一方で元移住者の住民が、龍に反応した。
「あれはイパルの雷神様では?」
「ああ、言われてみれば、ほんとだ。絵巻に出てくる雷神様の姿そっくりだ」
グラント達はこちら側から攻撃をしない限りは瘴気がたまらないことを知っていたので、何人かを龍に警戒させたまま、レンドと対峙しているエルに向かってボウガンを放った。
エルは体を傾けて避けたが、何発かが体に突き刺さった。
レンドはその隙をついてもう一つの金属塊をひろったが、最後の所にエルが立ちはだかり
また突進をしてきた。
レンドがそれをよけると、エルはお構いなしにその勢いで何人かのグラントの隊の兵に牙を突き立てた。
グラントはとっさに避けたが、隊の一人がエルの牙で一突きにされて、そのままなぎ払われた。
そしてエルは方向を戻すとまたレンドに襲いかかろうとする。レンドは今度は交わさずに両手に持った四角い金属塊のすぐ横についている取っ手に力を入れる。するとそれぞれの金属塊から大きなナイフの先端のような刃が飛び出してくる。レンドは両手に持ったその金属塊と刃でエルの牙を受け止めた。そしてグラントに指示をだす。
「いまだ!やれ!」
それを受けてグラント達は一斉にエルに向かってボウガンの矢を放ち、何人かは剣できりかかった。すると瞬間、レンドに食いついていた、エルの口から力が抜けた。
レンドは瞬時に対峙しているエルの心臓が拍動しなくなっていることに気づく。
レンドはすぐさま
「右によけろ!」
と大声をだした。グラント達が急いでその方向に避けると、うしろから光線が飛んできていた。
かわしきれなかった隊の2,3人がやられる。
見ると後ろから龍が光線を放っていた。
グラント達が驚く中、丘の上でリマはこの光景を見て満足そうに頷いた。
「彼の強さはその心臓の位置の切り替えの速さにある。覚醒当時はここまでではなかったはずだが、エル君と合体したことでより多くの瘴気の恩恵を受けるようになったんだ。さて、どうするかな」
一方でレイル達のいる祠にも異変が起きていた。
レイル達が槍を刺した地面から瘴気が漏れ出ていたのだ。
何人かが異変に気づいて恐れ出していた。だがレイルはそこを動こうとはしなかった。
事前にレンドにレンド側からも合図があるまではそこを離れるなと言われていたからである。
グラントは戦いながら途方に暮れていた。
――追い詰めても瞬時に心臓の場所が変わっちまってるみたいだ。しかも二体攻撃しようにも心臓がない方に攻撃を続けちまうと黒い雷の餌食だ。
たまらずレンドに問いかける。
「どうすんだ」
レンドは一瞬考えていたが、瞬時に指示をだした。
「もう一度奴の犬の体に心臓を戻す。それと同時にあそこで転がっている俺の金属を手に入れる。後は随時指示をだす。それに従ってくれるか?」
グラントは頷いた。
「何か、考えがあるんだな」
レンドは頷く。
「賭けだが、確率は高い。これで行くしかない。」
リコはこの後、銀の爪の1人であるサラにレンドの強さについて聞くことになる。
その時サラは少し考えてからこう答えた。
「彼の強さは…私も何度かしか一緒に狩りをしたことはないんですけど、あの計画立案能力にあると思います。彼が思いつく作戦には、基本的に隙がない。
そしてもう一つの強さが、その完璧な作戦を戦いの場では瞬時に変えれることです。
なぜそんな計画を立てれて、しかもそれに固執しないのか聞いたことがあるのですが、そのときに彼は、
『計画が成功するコツはしらないが、失敗するときは基本的に同じだ。一つは目的達成以外に別の不純な動機があること、もう一つが情報不足、そして最後が、計画通りに物事が進まないことを、頭に入れずに計画を立てることだ。俺はなるべくそういうことにならないようにしているだけだ』
と言っていました。私は今もこれを肝に銘じて、獣と相対するようにしています。」
とサラはリコに告げていた。
レンドとグラントはタイミングを見計らって今度は龍の方に攻撃を開始する。
龍はエルとは違い光線をメインとした攻撃を始めたため、レンド達は必死にそれを避けた。
そしてその光線の隙間をかいぐぐりレンドが両手に持っている刃で龍にきりかかる。
それを見ていたグラントは龍がレンドに気を取られている隙に、残りの一つの金属塊を回収した。
龍は、斬りかかられ、大声で咆哮したが、瞬時に一回転してレンドを吹き飛ばした。
そして転倒したレンドに向かって光線を浴びせた。
レンドは間一髪避けたが、腰のあたりを光線がかすめて負傷した。  
痛みでうずくまるレンドをグラントが引っ張り起こして、金属塊の三つ目を持たせる。
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登場人物紹介

少女:リコ

小太りの男:カルケル

入れ墨の男:レンド

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