第75話 暴かれる真実

文字数 2,009文字

ベルはただ美しいと感じていた。
ベルは孤児として生まれ、色々な街を渡り歩いた。
そのうち詩人の生き方に憧れるようになり、特定の恋人も家庭も持たないまま、根無し草で生きてきた。
彼はそんな自分の生き方に悔いはなかったが、たまに皆が口をそろえて言うそういうものの温かみを知りたい、そんな世界に生きれたら、と思うことも時折あった。
今ベルは、リクードやメイとの魂の繋がりを通じて、ようやく知らなかったその温かみを知ることができた。
――こんな感じなのか…ありがとう最後にこれを知れてよかった。
ベルは二人に感謝を示した。リクードとメイは頷くと、3人でもう一度しっかりと手を繋いだ。
そして3人は手を繋いだまま、魂の向かう先へ一緒に歩き出した。
その瞬間、獣の実体である白い人間の体は崩れ落ちた。
クレアとカルケルはその場で抱き合って泣いた。
ピントは遅れて戦いが行われた場所に到着すると、エルはもう死んでいてその場には犬の亡骸があるのを目にした。
「拡大型は亡骸が残ることがある、元の体のな」
とピントの後ろから傷だらけのレンドが言った。
ピントはエルの亡骸を抱えて。
「お前ばっかり戦わせてすまなかったな」
とエルにわびた。エルはどこか安らかな寝顔をしていた。
領主はなんとか逃げのびて、街の人がまだ残っている丘のところまで戻って来ていた。
「全くひどい目にあった」
だがそこで領主は街の人々の自分を見る目が普段と違うことに気がついた。
皆領主を白い目で見つめている。
「なんだ貴様ら、何か言いたいことでもあるのか。早く街へ戻れと言ったろうが、きこえなかったのか?」
だか街の人々は誰も動こうとはしなかった。領主はいよいよ様子がおかしいことに気づくと辺りを見渡した。
すると街の人たちの中にはデルムタやブレストがいることに気づいた。
――まさかこいつら何か言ったんじゃなかろうな。
そう思うと領主はデルムタ達に近づいた。
「貴様ら何をこいつらに吹き込んだ」
だがデルムタは特に動じる様子はなかった。
「おい!お前たち!こいつらが何を言ったか知らないがそんなものは全部嘘だ」
だが街の人の態度は変わらない。
「あなたは何か勘違いをしておられるようですね領主様」
デルムタがしゃべり始める。
「何かをおっしゃったのはあなた自身ですよ」
領主はデルムタの言う意味が分からず問い返す。
「なんだと?どう言う意味だ」
すると遠くの聞こえるはずのないカルケルとピントの会話が聞こえてきた。
「これで本当に良かったんだよね」
「ああ、この子達の恨みははらした、今頃街のみんなは自分たちが仕えている領主がどう言う人間なのかよくわかったはずだ…」
「クレアさんその手に持ってるお守りってもしかして…」
これに驚いたのは領主だった。
――なぜ遠くにいるはずのピントやカルケルの声が聞こえる?
この戦いが始まる前日。レンドはカルケルとピントにこう指示していた。
「獣の前で領主を挑発して本当のことを晒すように仕向けてほしい」
この役割はカルケルとピントどちらでも良いとレンドは話したが、鐘の音の件をピントが目撃したことやカルケルの口の達者度合いから自然とカルケルがやることになった。
だがカルケルはなぜそれが復讐の方法になるのかわからず、レンドに詳細を尋ねた。
たとえ領主がカルケル達だけに白状したとしても他の町の人間は信じないだろうからだった。
当然だと言う形でレンドはとある能力を皆に見せた。
まずレイルに絶対に聞こえない位置まで離れてもらい、そこでいくつか言葉を発してもらうと言うことだった。
レイルが離れるとレンドはその位置を確認して瞬時に入れ墨をレイルの側に動かした。
そして何か喋るように合図を出す。
「全くなんで俺がこんなこと… こんなに離れちゃ何を話してるかなんてわからんだろう」
しかしレイルが離れて発した言葉はレンドだけではなく、カルケルやピント、みんなの耳に届いていた。
これにカルケル達は驚いた。
「これは一体…」
レンドは言う。
「これを使えば他の街の人間にも領主が言うことを直接聞かせられる。領主が俺の能力を知らない事とお前らが上手く奴を挑発することが肝心だ。うまくやってくれ」
そういわれて二人はうなずいた。
領主は少ない時間で大量のことが起こっていて頭の整理が追いついていなかった。
サルドの死が直近の出来事として重くのしかかっていたが、それは最悪、サルドの姉の息子などに権力を継がせれば権力の維持は可能だった。
だが今回の騒動の発端が自分にあることや、自分が今まで何をしてきたのかが街の人間に知られるのはあまりに想定外だった。
街の人達に囲まれると、領主は質問責めにあった。
「ベルさんを殺したのは本当なんですが?」
「カルケルさんの娘も」
「お告げを誤魔化したというのは?」
領主はお付きのもの達を使ってその人々を遠ざけようとしたが、なかなか街の人間達は領主から離れようとしなかった。
丘の上でリマはその様子を感心したように眺めていた。
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登場人物紹介

少女:リコ

小太りの男:カルケル

入れ墨の男:レンド

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