第25話 銀の爪の集結

文字数 2,229文字

集う場所にはリンドバルドの丘が選ばれた。
最初に丘についたのは一人の女だった。彼女の紙はきれいな金髪で年はレンドより5歳ほど若く20代前半といったところだ。
彼女は真面目そうな様子で、あたりに自分一人しかいないことも特に気にすることもなく丘の中心のあたりで景色が見渡せる場所に陣取った。
しばらくすると、一人の太った男が顔を出す。
先についている女に声をかけることもなく男は彼女の右隣に陣取った。
女の方は一応挨拶をしたが、太った男は手をあげて合図するだけで別段話したりはしなかった。
そしてそのあとすぐ、三番目についたのがレンドだった。
女がレンドに話しかける。
「長が私たちを集めるのは珍しいですね。一人ひとりはまだしも、全員だなんて」
レンドは答える。
「ああ。あまりいいことではなさそうだ。」
そんな二人の会話を太った男は興味なさそうに聞いている。
しばらくすると、男と女の二人組が現れる。女は車いすで男に運ばれていた。
二人組の片方の女は三人を見ると、運んでいる男に悪態をつき始める。
「あんたが遅いから、遅れたじゃない」
男はただ女の癇癪に慣れた様子で、
「お嬢様の起きる時間に問題があります」
と返す。二人はそんな言い合いを繰り返しながら、三人の左隣についた。
「あと一人か、まあ予想通りだな」
とレンドはつぶやく。
最後に男が一人、丘に現れた。彼は幾人かの部下を従えていたが、部下に離れて待っているように伝えると、皆が集っているところに現れた。
男はかなりの優男で顔が整っており、装いもほかの者とは違い帝国の隊服のような正式なもの
をきっちりと着こなしていた。
ローブが多い銀の爪の中では彼装いは少し異質だった。
「相変わらずだな」
とレンドはその男に聞こえるようにつぶやいた。いわれた優男は肩をすくめて、
「君たちほど、暇じゃないんだ。部下の指揮も俺の仕事なんでね。」
レンドは挑発する。
「できないなら、誰かに譲ったらどうだ。」
男に食って掛かるレンドを最初についた金髪の女は気まずそうに見ている。
優男は肩をすくめるばかりでまともに返事をしない。
「レンドさんには相変わらず嫌われているらしい、なんでだと思う。グルイン君」
太った男に話題を振ると、彼はこう返す。
「それは明白だ。ゴルド、レンドはお前の加入が気に入らない。
たとえ掟によって定められた手順を踏んでいでもな…前任によほど思い入れがあったらしい。
俺にはわからない感覚だ 」
レンドはグルインと呼ばれた太った男を睨む。
「お前のやり方も、俺は同じくらい気に食わない」
二人の仲に張り詰めた空気が流れた時、金髪の女が声を出す。
「長がおつきです。」
そういうと彼らの後ろに長と呼ばれる男が立っていた。
長はかなり年を取っているらしく、見た目はおよそ80歳ごろだった。
かれは全員を見渡すと、
「結構、みな変わらないな」
レンド達は長の言葉を聞いている。
「今日集まってもらったのは他でもない、伝承型についてだ。ずっと調査と研究を繰り返し進めてきたが、この前のサラの一件、あれでついに我々は確証を得た。」
その一言で全員が、金髪の女を見る。
サラはあまり自分が集められるきっかけになった自覚がなかったので少し驚いていたが、
すぐに気を取り直してしゃべり始める。
「皆さんは詳細を知らないと思うので、私のほうでいくつか説明します」
レンドはサラの加入当時をふと思い出し、時の流れを感じていた。
「今回私が相対した獣は黒の伝承型でした。黒の伝承型にしては攻撃力が強かったですが、問題は心臓の場所です。街の人間の中に心臓の場所を把握している人間がいました。」
男女二人組のうちの女のほうがそれに聞き返す。
「心臓の居場所を知っている人間がいるのはそこまで珍しいケースではないわ。前にもいくつかあったはず」
サラは冷静に返す。
「ええ、私も経験したことがあります。なので別段そこまで気に留めていなかったのですが、今回がいつもと違っていたのはその人が心臓がその場所に配置された日時を知っていたことです。」
これには何人かが反応した。
最後に来た優男が一番初めに反応する。
「配置?まずそこがおかしいだろう。心臓は自然発生的にあらわれるものだと思っていたが…」
サラが答える。
「ええ、私もそう思いました。でもその目撃者ははっきりと『5月8日の夜に人の手でその場所に心臓がおかれた』とそういったんです」
今度はグルインと呼ばれた太った男が反応する。
「ただ心臓を見つけた人間が何かの動機で心臓を別の場所に移したと考えるのが妥当に見える。」
サラは冷静に返す。
「心臓の目撃者はこう言ってました。『彼は一度心臓を地中に埋めた後、近くの装置みたいなものを押した』とその後一度心臓が地中で激しく光ったと」
レンドがつぶやく。
「心臓の操作…にわかには信じられないが」
サラは続ける。
「目撃者ははじめ『魔法を使ったんだ奴は!!魔術師だ!』とか言っていました。でも詳しく聞くと、何らかの装置で心臓を操作させていることが分かったんです」
ここで長が割って入る。
「ここからは引き継ごう。伝承が出てきたのがここ10年弱だ。だがそこから伝承型の強さは加速している、当然倒す過程の複雑さもな。間違いなく人や何らかの意思が介在されていることは感じてはいたが、明確な証拠がつかめずにいた。だがようやく、尻尾をつかんだというわけだ。」
二人組の男の方が今度は口をはさむ。
「それは今までわかっていなかったのですか?あなたならもっと早く気づいていたのでは?」
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登場人物紹介

少女:リコ

小太りの男:カルケル

入れ墨の男:レンド

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